カルベジロール(アーチスト®)の抗不整脈作用メカニズム―ストア過負荷誘発Ca2+放出抑制とβ遮断

Carvedilol and its new analogs suppress arrhythmogenic store overload–induced Ca2+ release

以下は、論文要約の抜粋です。


カルベジロールは、心不全での心室頻脈性不整脈の予防に最も効果的なベータ遮断薬の1つだが、その有益な抗不整脈作用のメカニズムは不明だった。

心不全患者では、ストア過負荷誘発Ca2+放出(store overload–induced Ca2+ release 、SOICR)とよばれる自発的Ca2+波が心室頻脈性不整脈を引き起こす。今回我々は、調べたベータ遮断薬の中で、
カルベジロールだけが心臓のリアノジン受容体(RyR2)の開口時間を直接短縮してSOICRを効果的に阻害することを示す。

このカルベジロールに特異的な抗SOICR活性が、元来のベータ遮断活性と合わせて、その有益な抗不整脈作用に貢献している可能性がある。カルベジロールのベータ遮断薬としての作用とSOICR抑制薬としての作用を分離して、どちらが抗不整脈作用に重要かを決定するために、SOICR阻害活性を持ち、ベータ遮断作用がきわめて弱いカルベジロール・アナログVK-II-86を開発した。

VK-II-86はRyR2変異マウスにおいてストレス誘発性心室頻脈性不整脈を予防し、選択的ベータ遮断薬のメトプロロールあるいはビソプロロールと併用した時により効果的だった。SOICR阻害と最適なベータ遮断の組み合わせは、個々の患者の状況にあわせたテーラーメイドな抗不整脈治療を提供できる可能性がある。


心室頻脈性不整脈は突然死の原因としては最も多く、大半の抗不整脈薬は無効です。ただ一つの例外はカルベジロールで、心室頻脈性不整脈を抑制し、突然死を防ぎます。しかし、上記のように、そのメカニズムは不明でした。抗酸化作用やα受容体遮断作用が重要だという説もありましたが、証明されていませんでした。

本論文は、カルベジロールがRyR2に直接働いて、その平均開口時間と開口確率を減少させる結果、SOICRを抑制することを示しました。他のβ遮断薬にはこのような作用は認められませんでした。このSOICRの抑制がカルベジロールのもつ特別な抗不整脈効果の秘密だったというのが本論文の結論です。

実は、私の父も心筋梗塞後の心不全治療薬としてカルベジロールを投与されました。そのおかげで、3度の心筋梗塞を乗り越えて長生きできたと思います。このようにカルベジロールによって命を助けられた人は、彼以外にも多いと思います。

本論文は、RyR2に直接働く薬物が新しい抗不整脈薬として登場するかもしれないことを強調していますが、β遮断薬と併用した方がより有効ということですので、結局、カルベジロールを越える薬はできない可能性もあります。少なくとも、カルベジロールが他のβ遮断約よりも優れていることの理論的説明ができたことは確かなようです。

心室性不整脈の発生メカニズムとカルベジロールの働き(Nature medicineより)

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