カスパーゼ3はがん細胞の死と再増殖の両方を刺激する―放射線治療や化学療法における役割

Caspase 3–mediated stimulation of tumor cell repopulation during cancer radiotherapy

以下は論文要旨の抜粋です。


がん治療おいて、アポトーシスは化学療法や放射線治療によって腫瘍細胞が死ぬメカニズムであることが広く認められている。本論文では、死につつある腫瘍細胞がアポトーシス由来の強力な増殖刺激シグナルを生じ、放射線治療中の腫瘍細胞の再増殖を刺激することを報告する。アポトーシスにおいて重要な働きをするカスパーゼ3が、この増殖刺激メカニズムに含まれており、カスパーゼ3の下流エフェクターの1つプロスタグランジンE2(PGE2)が生き残った腫瘍細胞の増殖を強く刺激する。

腫瘍細胞あるいは腫瘍間質におけるカスパーゼ3の欠損は、異種移植片あるいはマウス腫瘍での放射線治療に対する腫瘍細胞の感受性を大きく上昇させた。ヒトがん患者においては、腫瘍組織中の活性化型カスパーゼ3の量が多いと、再発率および死亡率の著しく上昇した。研究者らは、カスパーゼ3が仲介する細胞死によって誘導される腫瘍再増殖経路の存在を提唱している。


がん細胞のアポトーシスを引きおこすことが、化学療法薬や放射線を用いるがん治療のゴールであると一般的に信じられています。しかし、この論文によって、アポトーシスががん治療で常にプラスであるという考え方に疑問が提示されました。

論文によると、アポトーシスで活性化されたカスパーゼ3が、Ca非依存的なホスホリパーゼA2を活性化し、アラキドン酸とその代謝産物であるプロスタグランディンE2(PGE2)の細胞外への遊離をひきおこします。そしてこれらの生理活性物質が、生き残ったがん細胞を増殖させ、がんの再発をひきおこすとされています(下図)。

実際の臨床における放射線照射は、この論文のように一度に大量の照射をおこなうのではなく、少量の照射を連日行うことが多いので、本研究の結果がそのまま臨床に反映されるとは思えないですが、腫瘍にアポトーシスを誘発するような放射線治療や化学療法の効果を考える時には重要な情報だと思います。

カスパーゼ3はがん細胞の死と再増殖の両方を刺激する(Nature medicineより)。

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