骨髄線維症における JAK1,JAK2 阻害薬 INCB018424 の安全性と有効性

Safety and Efficacy of INCB018424, a JAK1 and JAK2 Inhibitor, in Myelofibrosis

以下は、論文の要約です。


背景:骨髄線維症は、フィラデルフィア染色体陰性の骨髄増殖性腫瘍で、血球減少、脾腫、低いQOL、短い生存期間などが認められる。骨髄線維症患者の約1/2は、Janus kinase 2 (JAK2) 遺伝子に機能獲得型変異(V617F)があり、これが病態生理に関与している。INCB018424は、Janus kinase 1 (JAK1)と JAK2 の強力かつ選択的な阻害薬である。

方法:JAK2 V617F変異陽性あるいは陰性の原発性骨髄線維症、本態性血小板血症に続発した骨髄線維症、真性多血症に続発した骨髄線維症の患者に対して、INCB018424の第1および第2相試臨床験を行った。

結果:153例の患者が14.7ヵ月以上INCB018424を投与された。最初に、可逆的な血小板減少に基づき、25mg 2回/日あるいは100mg 1回/日を最大耐用容量とした。野生型JAK2を持つ患者と JAK2 V617F変異を持つ患者で、JAKシグナルのマーカーであるSTAT3の用量依存的な抑制が示された。さらに用量を検討した結果、15mg 2回/日で投与を開始し、その後は患者ごとに用量を調節するのが最も有効かつ安全であることを確立した。この投与法により、33例中17例(52%)が迅速な客観的反応(脾腫が 50%以上縮小)を示し、12 ヵ月以上持続した。またこの治療により、3度あるいは4度の有害事象(主に骨髄抑制)が認められた患者は10%未満だった。体重減少、疲労、寝汗、掻痒感などの症状も、INCB018424投与により迅速に改善した。これらの臨床的ベネフィットは、通常骨髄線維症において上昇する循環血中炎症性サイトカインレベルの顕著な低下と関連していた。

結論:INCB018424は、認められた治療法のない骨髄線維症の患者において、顕著かつ持続的な臨床的ベネフィットと関連していた。


骨髄線維症とは、骨髄の広い範囲に線維化がみられ、骨髄穿刺で骨髄液が採取できないのが特徴の難病です。日本では、平成10年度、全国で660人と報告されています。難治性疾患克服研究事業における臨床調査研究対象疾患130疾患の1つです(難病情報センターのサイトをみる)。

骨髄線維症は、原発性と2次性に分けられます。このうち、原発性骨髄線維症とは、多能性造血幹細胞の腫瘍性増殖により、骨髄の広汎な線維化と脾腫を伴う疾患で、慢性骨髄増殖性疾患のひとつに位置づけられています。2次性骨髄線維症は、他の疾患に伴っておこる骨髄の線維化で、造血系腫瘍や結核などの炎症性疾患、膠原病および骨疾患などでみられます。

約1/2の患者でJAK2遺伝子に機能獲得型変異(V617F)があるというのは知りませんでした(論文をみる)。血球減少、脾腫などは本変異で説明がつき、AMLへの変化も本変異が原因だと思われるので、骨髄線維症の分子標的としてJAK2を設定することは、非常にリーズナブルだと思われます。実際、マウスモデルや培養細胞系を用いた前臨床研究でも良好な結果が得られていました(論文をみる)。

骨髄線維症では、患者抹消血の細胞でJAK1キナーゼ系も構成的に活性化されているという報告があるので、JAK2だけではなく、JAK1も阻害するというINCB018424の特異性の低さがかえって良かったのかもしれません。第3相試験の成功と早期の市場への登場を祈っています。

サイトカインの刺激によって、レセプターに会合するJakキナーゼが、STAT蛋白をチロシンリン酸化します。リン酸化されたSTAT蛋白は核に移行し、標的遺伝子の転写活性化を誘導します(北大薬衛生化学研HPより)。

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