脳微小血管の塞栓は、血管外に排出されることで血流が再開通する。

Embolus extravasation is an alternative mechanism for cerebral microvascular recanalization

脳の微小血管がつまった時に再開通される新しいメカニズムが発見されました。以下は、論文の要約です。


脳微小血管の閉塞は、生涯を通じて日常的にみられる現象であり、脳が病気になるメカニズムとしてもっと注目される必要がある。微小血管が迅速に再開通しなければ、脳循環が障害され、重大な機能欠損が生じる可能性がある。

これまで、血流の力と線溶系が、閉塞した脳の毛細血管と終末細小動脈の再開通の主なメカニズムと考えられていた。

研究者らは、この再開通において極めて重要と思われる、これまで知られていなかった新しい細胞メカニズムを発見した。

固定した組織の高解像度顕微鏡と生きたマウスでの二光子画像解析を用いた観察により、内頸動脈から注入された微小塞栓の大部分は、48時間以内に溶解されることも洗い流されることもないことがわかった。

かわりに、塞栓は2~7日以内に血管腔の外に移動し、完全な血流の再建と血管の温存がおこることがわかった。

この再開通は、これまで知られていなかった微小血管の可塑性という新しいメカニズムによっておこる。すなわち、血管内皮膜が突出し、塞栓をすばやく包み、その後新しい血管壁を形成する(下の写真を参照)。その後、内皮に穴ができ、塞栓はこの穴を通って血管外(周囲組織)へ移動した。

マトリックスメタロプロテアーゼ2/9の活性を薬理学的に阻害すると、血管外への塞栓の排出率は大幅に低下した。また、老化マウスでも塞栓の血管外への排出は著しく遅延し、その結果、持続性の組織低酸素状態、シナプス損傷および細胞死がおこった。

研究者らが発見した血管保護のメカニズムにおける効率の変化は、微小血管の病理、脳梗塞からの回復、および加齢に伴う認知力低下において、重要な意義をもつかもしれない。


脳の血管では、血流のうっ滞や動脈硬化によって、小さな塞栓は日常的に発生していると考えられています。これまでは、これらの微小塞栓は、血流によって取り除かれたり、繊維素溶解系によって分解されたりすると考えられていました。

今回、塞栓の血管外排出という3番目の塞栓除去メカニズムが存在し、少なくとも脳の微小血管では重要であることがわかりました。脳以外の血管でも同じようなメカニズムがあるかどうかは、まだわかりません。

これまでは、異物による塞栓の場合、再開通はありえないと思われていましたが、同じように血管外に排出されれば、再開通できる可能性があります。

薬理学的にマトリックスメタロプロテアーゼを阻害すると排出率が低下するということですが、何らかの方法で人工的に排出率を上げることができれば、脳梗塞治療に応用できるかもしれません。

老化マウスでの場合と同様、ヒトでも加齢によって塞栓排出メカニズムが低下する可能性は高いと思います。脳卒中リスクは、高齢化とともに著しく高くなるのですが、不整脈や動脈硬化だけでは説明できない部分は、今回発見されたメカニズムと関連があるのではないかと思います(関連記事をみる)。

塞栓(オレンジ色)が血管(緑色)の外へ排出される様子。

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