以下は、記事の抜粋です。
はり治療は、アデノシンとよばれる物質を放出させることで体の痛みを和らげているとする研究が5月23日、ロチェスター大学メディカルセンターの研究者らによってNature Neuroscience上で発表された。
このメカニズムは、マウス実験で明らかになった。研究チームは、マウスの右前足に炎症を引き起こす薬剤を注射。その後、マウスのひざの中心線の下部、「足三里」と呼ばれる部分に細いはりを刺した。
研究者らは、通常のはり治療と同様に、5分おきにはりをゆっくりと回転させる行為を30分にわたって行った。その結果、行為中と行為直後には、はりが刺さっている周囲の組織に含まれるアデノシン量が実験前の24倍となったという。また、体を触った際や熱に対する反応時間から計測したマウスの不快症状の度合いは3分の1に減っていたという。
遺伝子操作によってアデノシンを除去したマウスでも同様の実験が行われたが、はり治療の効果はなく、マウスははりを刺す前と同様、不快な症状を示していた。
研究チームは次に、白血病治療薬のデオキシコホルマイシンをマウスに投与する実験を行った。デオキシコホルマイシンは、体の組織がアデノシンを除去するのを防ぐ役割をもつ。実験の結果、マウスの体内に蓄積されたアデノシンは、はり治療の効果時間を約3倍にしたという。
はり治療に関するこれまでの研究では、末梢神経系よりも中枢神経系における効果に重きが置かれてきた。中枢神経系では、はり治療を行うことによって脳にエンドルフィンとよばれる痛みを緩和する強力な化学物質を生成するよう命令が出るとされている。
元論文のタイトルは、”Adenosine A1 receptors mediate local anti-nociceptive effects of acupuncture”です(論文をみる)。
論文によると、はり治療によってアデノシンだけではなく、ADP、AMPなどのATP代謝産物が増えました。
また、A1アデノシン受容体の選択的アゴニスト、2-chloro-N(6)-cyclopentyladenosine (CCPA)を局所に投与すると、針治療と同様の鎮痛効果がありました。しかし、A1受容体をノックアウトしたマウスでは、針治療の効果もCCPAの効果も認められませんでした(記事では「アデノシンを除去した」と書かれています)。
さらに、核酸アナログのdeoxycoformycinは、AMP deaminaseとアデノシンdeaminaseの両方を阻害し、細胞外でのアデノシン量の減少を抑制します。このdeoxycoformycinがはり治療の効果を増強したそうです。この増強作用は臨床に応用できるかもしれません。
はりを刺して回すことで生じる組織損傷によって、細胞外のアデノシンが増加し、それがA1受容体を刺激して鎮痛効果を発揮するという話です。マッサージなどによる鎮痛効果も同様のメカニズムかもしれないと研究者らは議論しています。
「足三里 ‘Zusanli point’」などの「つぼ」と「つぼ」でない部分は、何がちがうのでしょう?論文では、ネズミでも「足三里」での鎮痛効果は確立されていると書かれていますが、「つぼ」以外の部分でははり治療は無効で、アデノシンも増えないのでしょうか?
はり治療は、美容目的にも行われているそうです
コメント