筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるoptineurinの変異とNF-κB阻害薬の可能性

ALSの原因遺伝子を発見=共通メカニズム解明の可能性-広島大など

以下は、記事の抜粋です。


筋力が衰える難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新たな原因遺伝子を、広島大と関西医科大、徳島大などの共同研究グループが突き止め、4月28日付のネイチャー電子版に発表した。非遺伝性を含めたALSすべてに共通する発症メカニズムに関与している可能性があり、その解明と治療法開発を目指すとしている。

ALSの約1割は遺伝性と言われ、いくつかの原因遺伝子が見つかっているが、まだ原因はほとんど分かっていない。研究グループは、遺伝性のうち劣性遺伝と考えられる症例に着目し、6症例の遺伝子の個人差(SNP)を詳細に解析。うち3例で、細胞内のシグナル伝達にかかわる物質「NFκB」を抑制するたんぱく質「OPTN」の遺伝子に変異があった。

NFκBは、がんや炎症への関与が知られている。劣性遺伝以外の非遺伝性など、ほかの症例でもこの遺伝子の変異が見つかった。

一方、発症部位である脊髄の細胞を調べると、非遺伝性や、OPTNとは別の原因遺伝子による症例でも、OPTNたんぱくの固まりがみられた。

これらの結果から、OPTNが原因遺伝子の一つにとどまらず、すべてのALSの発症に関与していることが示されたとしている。


元論文のタイトルは、”Mutations of optineurin in amyotrophic lateral sclerosis.”です(論文をみる)。

以下は、論文の要約です。


Amyotrophic lateral sclerosis (ALS)は、中年期に発症し、運動ニューロンの進行性変性を特徴とする疾患である。ALSは、ほとんどの場合孤発性だが家族性に発症する場合もある。家族性のALSの原因遺伝子として知られているものは、superoxide dismutase 1 (SOD1)、ANG、DNA結合タンパク質TDP-43をコードするTARDP、FUS (TLSともよばれる)などである。しかし、これらの遺伝子異常は、家族性ALSの20–30%にしかみられず、多くの場合の遺伝子異常は不明だった。

本論文では、ALS患者において、以前に原発性開放隅角緑内障(POAG)の原因遺伝子として報告されたオプチニューリン(optineurin 、OPTN)をコードする遺伝子に変異があることを報告する。

ALSを惹起するOPTNの変異には3タイプあった:エクソン5のホモ接合性欠失、ホモ接合性Q398Xナンセンス(ストップ)変異、ユビキチン結合領域におけるヘテロ接合性E478Gミスセンス変異の3つである。

これらの変異型OPTNを発現させた細胞での解析から、これらOPTNのナンセンス変異とミスセンス変異は、OPTNがNF-κBの活性化を抑制する機能を失わせた。また、E478G変異型OPTNの細胞質内局在は、野生型やPOAG型のものと異なっていた。

E478G変異型OPTNは、OPTN抗体と反応する細胞内封入体として存在していた。驚いたことに、孤発性やSOD1異常のALS患者におけるTDP-43陽性あるいはSOD1陽性の封入体もOPTN抗体と反応した。

これらの結果は、OPTNがALSの病因と深く関わっていることを強く示唆する。さらに、NF-κB阻害薬がALS治療に使えることと、変異OPTNを発現するトランスジェニック・マウスが治療薬の開発に役立つ可能性を示している。


現在、ALSに有効とされる薬物は、リルゾールだけです。リルゾールはALSの「グルタミン酸過剰仮説」に基いて開発された薬物で、グルタミン酸による神経毒性を抑え、神経細胞を保護する作用を持つ唯一のALS治療薬として使用されています。

リルゾールは、ALS患者の生存期間や人工呼吸器装着までの期間を少し延長させるという結果が出ています。しかし、リルゾールには、病気の進行を抑える作用はありますが、症状を改善したり、回復させる効果はありません。また、症状が進んで呼吸障害が起こっている場合は、使用することはできません。

著者らは、ALS患者脳ではNF-κBが異常に活性化されており、その結果過剰発現したOPTNが神経細胞死をおこすと推論し、NF-κB阻害薬がALSに有効である可能性を強く主張しています。

NF-κBを阻害することが知られている薬物の一つはステロイドで、NF-κBと直接結合して転写活性を阻害します。また、最近注目されているDHMEQ(dehydroxymethylepoxyquinomicin)は、IκBのリン酸化やNF-κBのDNAとの結合は阻害しないが、NF-κBの核移行を阻害するといわれています。

欧米で偏頭痛の治療に使われているハーブの主成分であるパルテノライド(Parthenolide)は、NFκBのDNA結合、転写活性を阻害するといわれています。欧米でサプリメントとして用いられているジインドリルメタンなどにもNF-κBの阻害作用があるとされています。

本論文では、NF-κB阻害薬がALS治療に使えることを強く示唆していますが、NF-κB阻害薬やNF-κBノックダウンが封入体形成を抑制するなどのデータは示されていません。本当にNF-κB阻害薬がALSに有効であれば、素晴らしいと思います。

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