局所麻酔薬-コカ、コカイン、プロカイン、リドカイン、その他の年表
講義の準備のためにネットをしらべていて、上のサイトをみつけました。滋賀医大の小山なつ先生が作られたものです。また、そこからの孫引きで、荒木康彦さんのメールマガジンをみつけました(メルマガ#27をみる、メルマガ#28をみる)。以下は、局所麻酔薬として初めて使われたコカインについての記載をまとめたものです。
コカインの原料、コカが世界史に登場するのは、1532年のピサロによるペルー侵略の時です。現地人がコカの葉を噛むことで肉体的に活発になることが記録されています。
コカインを最初に局所麻酔薬として手術に用いたのは、Karl Kollerというウィーンの眼科医でした。1884年9月、コカイン溶液を点眼し、無痛で白内障の手術に成功しました。同年、Lancetに論文が掲載されました。元共同研究者のSigmund Freudは、Kollerにコカインを麻酔薬として使用する特許を譲りました。
眼科痲酔は、コカイン溶液を点眼するだけの簡便な方法ですので、たちまち欧米各国に普及しました。ニューヨークの外科医、William Stewart Halstedは、1884年9月のコレルの発表を知ると、すぐに実験を始めました。彼はコカイン溶液を準備し、自分たちの皮下に注射してみて、無痛状態が続くことを発見しました。そして、少量の薬物で広い領域の麻酔をえられる伝達痲酔法の基礎を1885年に確立しました。
研究の途中で、Halstedは、コカインを注射すると、疲労感が消失し、元気になることに気付きました。頭は普段の何倍も早く回転し、洞察力は広く深くなり、まるで天才になったかのようでした。彼等は日常的にコカインを使うようになりました。しかし、薬が切れると焦燥に襲われ、幻覚が始まりました。ついにはコカインを絶え間なく、飲みつづけずにはいられなくなりました。Halstedのグループは全員重度のコカイン中毒に陥ってしまったのです。
友人達は、Halstedを無理矢理入院させました。一年後ニューヨークに帰ってきたハルステッドはまるで別人でした。陽気で明るい外科医は小心な臆病者になっていました。そして悲しいことに、治療を一年間受けたにも関わらず、コカインに決別できていませんでした。
Halstedは、その後二回の入院を経て、なんとかコカインから離れることができましたが、性格変化は残ったままでした。
ところで、局所麻酔薬の項に書かれていますが、局所麻酔薬は、閉じたNaチャネルよりも、開いているチャネルのほうに対して高い親和性をもっています。これを「使用依存性”use-dependent”」といいます。
臓器移植時の拒否反応を抑制するために用いられる免疫抑制薬タクロリムス(FK506)は、FKBP12というタンパク質と複合体をつくり、この複合体がカルシニューリンの脱リン酸化酵素活性を阻害します。そして、このタクロリムス/FKBP複合体も、活性化されたカルシニューリンに対して高い親和性をもっています(文献をみる)。
これらの薬物のように、活性化状態の標的分子に特異的に結合する薬物は、微量でも効果的な薬理作用を示します。
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