北朝鮮の脅威が去れば、日本の次の「敵国」探しが始まる

北朝鮮の脅威が去れば、日本の次の「敵国」探しが始まる
以下は、Newsweek2018年6月19日号に掲載されたエリック・イサクソン(スウェーデン安全保障・開発政策研究所ジュニアリサーチフェロー)による記事の抜粋です。


北朝鮮をめぐる状況はこの1年間に激変し、今や和解の可能性が見えている。こうしたなか、日本は北朝鮮による核保有を阻止し、日本人拉致問題をめぐる交渉の席に北朝鮮を引きずり出すべく圧力路線を貫いてきた。

日本の国内政治において北朝鮮は「主な敵国」であり、それが圧力路線を正当化する要因になってきた。北朝鮮との融和が現実になったら、今度はどの国が敵に位置付けられるのか。そうした変化は東アジアの地域安全保障にどんな意味を持つのか。

安倍晋三首相はこの1年間、政治問題の渦中にある。米朝および南北の対話ムードは日本にとって予想外だったという指摘もあるが、日本政治の現状を考えれば、話のタネがほかにあるだけでも安倍にはありがたい。

自身の政治問題から意識をそらすことで、安倍の支持率が上がる可能性はある。9月に予定される自民党総裁選で3選を果たすこともあり得るだろう。それでも北朝鮮との融和が日本政治、とりわけ憲法改正問題に与える影響に関して疑問は残る。

安倍は北朝鮮の脅威を重視し続けてきた。動機はおそらく、日本人拉致被害に対する倫理的な怒りだけでなく、防衛強化と憲法改正が不可欠だとの意識を国内で広げる上で役立つとの意図にある。

北朝鮮問題の解決や改善は東アジアの地政学に対して直接作用するだけでない。日本国内での憲法改正問題の行方をも左右し、地域安全保障に間接的な影響を与える。

日本の政治エリートの間には、特定の脅威の有無にかかわらず何らかの形で憲法を改正することへの強い支持がある。だが同時に、脅威の存在を指摘して憲法改正を正当化すべきだとの認識があるなら、彼らは北朝鮮の脅威が消えた後の空白を別の存在で埋めなければならない。

それは中国かもしれない。5月4日に習近平主席と初めての電話会談を行うなど、対中関係は改善の兆しを見せている。とはいえ内閣府の「外交に関する世論調査」では、中国に親しみを感じる人の割合は90年に52.3%だったが、16年は14.8%まで落ち込んだ(昨年は18.7%)。

北朝鮮に絡む数々の問題が近く解消するという考えは楽観的に過ぎるだろう。仮に解決しても、建設的とは言えない結果になるかもしれない。日本人拉致問題の場合、真実が明るみに出る形で解決したら、北朝鮮の所業を知った日本および国際社会との関係がさらに悪化するとの見方もある。

とはいえ、それも解決し、北朝鮮を主な敵国として利用できなくなった場合、中国への敵意が高まるのか。答えは、日本の指導層がその政治目標の実現に際して、敵の存在がどれほど有効と判断するかによる。

世論の面で憲法改正の基本条件が整えば、中国の敵国化は不要になるだろう。しかし憲法改正ムードの醸成に当たって、安全保障上の脅威が持つ効果を過小評価してはならない。

北朝鮮の脅威という、日本にとっての政治ツールは今や消滅しかねない。その後の空白を中国への敵意で埋めるなら、東アジアはより深刻な危機に陥る。

日本が防衛強化や憲法改正を行う必要があるかはともかく、その実現を目指す人々は環境整備を進める上でやり過ぎてはならない。特に中国との「雪解け」を犠牲にするのは禁物だ。


非常に良く書かれた文章だと思います。読んでみて考えたことをいくつか書きます。

1.現政権が北朝鮮の軍事的脅威を、統治のために必要以上に誇張し、利用していることには同意します。日本政権のピンチになったらミサイルが飛んでくるというような状況がなくなってしまったら、安倍氏周辺は困るかもしれません。

2.中国の場合、「拉致」のような絶対的な敵視理由はありません。、むしろ、過去の侵略戦争での日本軍の行為に対する「後ろめたさ」、漢字など過去の長期間における文化的依存、あまりにも強大過ぎる現在の人民解放軍、、、などなどを考えると、いくら尖閣周辺での領海侵犯や観光客の行儀の悪さを煽っても、今の北朝鮮ほどの効果的な役割は難しいと思います。

3.関係ないですが、一昔前の日本人観光客、特に男性団体客の東南アジアでの行儀の悪さは、今の主に家族で来ている中国人観光客と比べものにならないぐらいにひどかったです。また、北朝鮮への敵視は豊臣秀吉や伊藤博文の時代から日本人の頭に刷り込まれてきた科学的根拠に乏しい差別意識に依存する部分が大きいと思います。盟友であるはずの韓国とうまく行かないのも、この差別意識が邪魔しているのではないでしょうか。

4.私は、このイサクソン氏が心配しているような状況が来たとしても、今の北朝鮮敵視政策のようにはうまく行かないと思います。たとえ、安倍氏が3選に成功しても憲法改正は難しいでしょう。むしろ、トランプが韓国との合同演習を金銭的理由で止めるように、日米安保条約をディールの道具に使い始める時が、憲法改正の好機だと思います。

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