患者はもう待てない。2つの新薬で結核治療に希望を灯す
以下は、記事の抜粋です。
薬剤耐性結核(Drug-resistant tuberculosis, DR-TB)に感染した人にとって、治療の選択肢はごくわずかだ。2016年だけで1000万人が結核に冒され、そのうち50万人余りが、治療に用いられるリファンピシンとイソニアジドという最もよく効くはずの薬に耐性を持つDR-TBだと見られている。耐性の強いDR-TBは、今この時代にも国際保健の大きな脅威となっている。
つい最近まで、最も耐性の強い「超多剤耐性結核」の治療では7種類もの薬を使い、つらく副作用の強い治療を何年も続けて、ようやく5人に1人が治癒するという状況だった。
2013年と2014年、デラマニドとベダキリンという結核新薬の初期の臨床試験で、有望な結果が出た。この2つの新薬がDR-TB治療に効果があるという根拠が示されたのだ。
国境なき医師団(Medicins sans frontieres, MSF)は2016年、治療の一環で2つの薬を併用しているアルメニア、インド、南アフリカ共和国の患者について、併用療法の安全性と、暫定的な有効性を計るためのデータを蓄積した。結果は有望で、薬剤耐性の強い患者23人中17人(74%)が半年の治療で結核陰性となり、治療の成功の兆しが見えた。目立った副作用は見られず、懸念されていた、心臓の電気活動への影響もなかった(論文をみる)。
MSFは30年余りにわたってDR-TB治療に携わり、NGOとしては最大規模で結核関連のケアを行っている。現在は、インド、中央アフリカ共和国、南アフリカ共和国、ウズベキスタンなど24ヵ国で通常の結核とDR-TBの患者を治療し、11ヵ国の保健省との協力のもと、デラマニドとベダキリンを用いた治療コースを提供している。
デラマニド(デルティバ®)とベダキリン(サチュロ®)の併用療法論文のタイトルは、”Early safety and efficacy of the combination of bedaquiline and delamanid for the treatment of patients with drug-resistant tuberculosis in Armenia, India, and South Africa: a retrospective cohort study”/です(論文をみる)。
結核は、結核菌によって発生するわが国の主要な感染症の一つです。毎年新たに1万8000人程度の患者が発生しており、世界的にみても日本はまだ結核の低まん延国ではありません。
WHOが発表した2016年の結核疫学指標の推定値によると、世界全体で, 結核罹患数は1,040万 (人口10万対罹患率140), 結核死亡(HIV陰性)数130万(同死亡率17)とされています。HIV(エイズウイルス)は結核の危険因子であり, 全世界での結核発生数1,040万のうち10%がHIV陽性です。また、現行の死因統計ではHIV合併結核死亡はHIV死亡に分類されますが, この死因分類でも結核は単一の病原体による感染症としては最大の死亡原因であり、さらにHIV陽性で結核で死亡したものが37万4千人と推定されています(記事をみる)。
さらに、通常の結核の死亡率は約7%ですが、多剤耐性結核の場合は約50%に達するという記事もあります(記事をみる)。
このように、多剤耐性結核に有効な新薬開発は非常に重要な課題です。1963年以来、結核の新しい治療薬は発売されていませんでしたが、最近になったこの状況は大きく変わりました。
日本では、大塚が開発したデラマニド(デルティバ®)2014年9月から承認されていました。さらに、本年の1月にベダキリン(サチュロ®)が承認され、それに伴って結核医療の基準が改正されました(記事をみる)。ベダキリン(サチュロ®)は、ミコール酸合成を阻害するデラマニドとは作用機序が異なり、結核菌のATP合成酵素を特異的に阻害し、増殖期及び休眠期の結核菌のいずれに対しても強い殺菌活性を示すとされています。
これら2つの新薬が活躍して、世界から結核による死亡が激減することを祈ります。以下の写真のように、まだまだ世界への普及には経済的な問題があり、時間がかかりそうです。
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