以下は、論文要約の抜粋です。
背景:タモキシフェンは、閉経後ホルモン反応性乳がんに有効である。CYP2D6は、タモキシフェンを活性型代謝物に変換し、CYP2D6の遺伝子多型はタモキシフェン奏効性と関連する可能性がある。本研究では、本仮説を検討した。
方法:受容体陽性閉経後乳がん患者4861名から得たDNAをCP2D6の9種類のSNPによってジェノタイプし、poor、intermediate、extensive metabolizers (PM、IM、EM)の3つに分類した。これと乳がん再発までの期間および顔面紅潮との関連を調べた。
結果:CYP2D6遺伝子多型と乳がん再発までの期間の間には関連が認められなかったが、タモキシフェンによる顔面紅潮はPMとIMにおいてEMよりも有意に多かった。
結論:仮説に反して、CYP2D6の酵素活性低下表現型は、タモキシフェンによる疾患コントロール不良と関連せず、顔面紅潮の増大と関連があった。これらの結果は、顔面紅潮の有無や薬理ゲノム学的CYP2D6多型検査によって閉経後乳がん患者のタモキシフェン治療を決定するという方針を支持しない。
上はBIG1-98研究とよばれる臨床試験の報告ですが、JNCIは下のタイトルのように、ATAC研究の同様の結果も同時掲載しています。この研究では、UGT2B7遺伝子型とタモキシフェン奏効性の関連も否定しています。
CYP2D6 and UGT2B7 Genotype and Risk of Recurrence in Tamoxifen-Treated Breast Cancer Patients
タモキシフェンは、CYP2D6によりエンドキシフェンに代謝されます。エンドキシフェンの抗エストロゲン活性はタモキシフェンの30~100倍あることから、エンドキシフェンが主な抗エストロゲン作用を担っていると考えることができます。
2006年、Matthew Goetz氏は、タモキシフェンを服用している女性のうち最大10%において、CYP2D6の遺伝的多型により、目的の効果が得られない可能性があること、さらに、薬剤相互作用によって、かなりの割合で治療が不成功に終わるリスクの高い女性がいる可能性があることを報告しました。
これを受けて、FDAの諮問委員会はタモキシフェンの添付文書ラベルの変更を全会一致で推奨しました。その変更は、CYP2D6に影響を与える遺伝的要因と薬剤相互作用の双方によるリスクの増加に関する情報を含んでいました。また、大半の委員会委員はラベル上に、タモキシフェンの処方前にCYP2D6遺伝子型の検査を行う選択肢について言及することも推奨しました。
日本での添付文書にも、CYP2D6を阻害するパロキセチンなどのSSRIとの薬物相互作用が記載されています。
このような状況を見ると、閉経後乳がん患者のCYP2D6遺伝子型によってタモキシフェン治療の効果が予測できるとする仮説は極めてもっともらしいのですが、上記2つの論文はこの仮説をはっきりと否定するものです。ただし、薬物相互作用については否定されていませんので、SSRIなどの使用は慎重にする必要があると思います。
日本乳癌学会も、その乳癌診療ガイドラインで、「CYP2D6の遺伝子多型をタモキシフェンの治療効果予測検査として調べることは勧められない。」としています。会員ではないので、詳細を見ることはできませんが、2011年の発表なので上記2つの論文以外の理由だと思われます。
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