DICER1 deficit induces Alu RNA toxicity in age-related macular degeneration
以下は、論文要約の抜粋です。
地図状萎縮(Geographic atrophy)は、網膜色素上皮(retinal pigmented epithelium)の変性が原因である加齢性黄斑変性症の治療不能な進行型である。
我々は地図状萎縮患者の網膜色素上皮において、miRNAを処理する酵素であるDICER1が減少していること、およびマウスモデルでDicer1をコンディショナルに除去(アブレーション)した場合に網膜色素上皮が変性することを明らかにした。他の7つのmiRNA処理酵素をアブレーションしても、そのような結果は生じなかった。
さらに、DICER1のノックダウンはヒト網膜色素上皮細胞においてAlu RNAの蓄積を誘導し、マウスでもAluに似たB1とB2 RNAの蓄積を誘導した。地図状萎縮患者の網膜色素上皮においてAlu RNAは増加し、この増加した病原性Alu RNAは、ヒトでは網膜色素上皮細胞毒性を誘導し、マウスでも網膜色素上皮の変性をひきおこした。
Alu/B1/B2 RNAをターゲットとしたアンチセンス・オリゴの投与は、miRNAのダウンレギュレーションがおこるにもかかわらず、DICER1アブレーションにより誘導される網膜色素上皮の変性を予防した。DICER1は、Alu RNAを分解し、分解されたAlu RNAはマウスの網膜色素上皮変性を誘導できなかった。
これらは、DICER1がmiRNAとは無関係に細胞を生存させる機能をもつこと、およびAlu RNAがヒトの病気を直接ひきおこすことを明らかにすると同時に、失明の主要な原因疾患である加齢性黄斑変性症の新しい治療標的を示す結果である。
加齢黄斑変性は滲出型と萎縮型に分けられます。滲出型は黄斑部の網膜色素上皮細胞-ブルッフ膜-脈絡膜の変化により発生する脈絡膜新生血管とその増殖変化を本態とする疾患で、出血、滲出による網膜色素上皮剥離、網膜剥離を呈し、高度の永続する視力低下を生じ、進行が速いとされています。萎縮型は黄斑部に網膜色素上皮-脈絡毛細血管板の地図状萎縮病巣が形成されるが、進行は緩慢だそうです(病気の説明をみる)。
Aluは、Short Interspersed Repetitive Elementの一つで、ヒトゲノム中に100万以上ものコピーが存在し、ヒトゲノムの 10%以上を占めています。しかし、Aluの生理機能や病気との関係は、今まで明らかになっていませんでした(Aluの説明をみる)。
本論文は、萎縮型加齢黄斑変性の原因の1つが網膜色素上皮細胞におけるAlu RNAの異常蓄積であると主張しています。また、Alu RNAをターゲットとしたアンチセンス・オリゴの投与で、DICER1除去により誘導される網膜色素上皮の変性が予防されたことから、Alu RNA阻害、あるいはDICER1の活性化を研究することがこの病気の治療に直結するとしています。
2009年、日本でもRanibizumab(ルセンティス®)が承認されました。これは、マウス抗VEGFモノクローナル抗体を遺伝子組み換えにより、ヒト化した抗VEGF抗体のフラグメント(Fab断片)です。アバスチン®(bevacizumab)と良く似ていますが、分子量は約1/3です。浸出型の加齢黄斑変性には、このRanibizumabやVEGFキナーゼ阻害薬のPegaptanib(Macugen®)などが用いられ、一定の効果が得られているようです。
今回の研究によって、浸出型に加えて萎縮型の加齢黄斑変性症の治療にも、分子生物学的研究の成果が反映されることが期待できそうです。
地図状萎縮(Geographic atrophy)の眼底(Natureより)
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