抗チューブリン化学療法薬に対する細胞の感受性はMCL1とFBW7によって制御される

Sensitivity to antitubulin chemotherapeutics is regulated by MCL1 and FBW7

以下は、論文要約の抜粋です。


微小管は細胞機能に重要で、抗チューブリン化学療法薬の標的である。タキソールやビンクリスチンなどの微小管を標的とする薬物は、卵巣がん、乳がん、非小細胞肺がん、白血病、リンパ腫など、多様な悪性腫瘍に対して広く処方されている。

これらの抗チューブリン化学療法薬は細胞を有糸分裂で停止させ、細胞死を誘導するが、そのメカニズムは明らかではない。また、これらの薬物に対して耐性を示すがん細胞が、どのようにして細胞死を免れるのかも明らかではない。

本研究では、生存促進タンパク質MCL1が抗チューブリン化学療法薬により誘導されるアポトーシスの重要な制御因子であることを示す。

有糸分裂で停止すると、MCL1のタンパク質量が翻訳後修飾メカニズムによって著しく低下し、細胞死が促進される。具体的には、MCL1がリン酸化されると、ユビキチンリガーゼ複合体の基質結合成分であるFBW7と相互作用し、ポリユビキチン化される。ポリユビキチン化されたMCL1は、プロテアソームで分解される。

FBW7を欠損するか、FBW7の機能喪失変異を持つ腫瘍細胞では、MCL1の分解はブロックされており、抗チューブリン薬に対する耐性を示す。さらに、非小細胞肺がんなどの原発腫瘍サンプルを調べると、FBW7の不活性化とMCL1のタンパク質量の上昇が認められ、発がんにこれらのタンパク質が重要であることを示している。

今回の知見から、腫瘍のFBW7とMCL1の状態を、タンパク質量、メッセンジャーRNA量および遺伝学的レベルで調べることが、患者の抗チューブリン化学療法薬に対する反応を予測するのに有用であると考えられる。


BCL2ファミリータンパク質の1つであるMCL1は、生存促進作用を持ち、細胞死メディエーターであるBAXやBAKの働きを阻害することで細胞死(アポトーシス)を抑制します。また、FBW7はF-boxタンパク質の1つで、SKP1、CUL1などとSCF複合体とよばれるユビキチンリガーゼ(E3)を形成し、タンパク質をポリユビキチン化します。

これまで、Jun、Myc、サイクリンEおよびnotch 1などのがんと関連のある重要なタンパク質が、FBW7を介して分解されることが報告されています。本論文では、リン酸化されたMCL1が、FBW7を介して分解されることが初めて報告されました。

また、BAXあるいはBAKのノックアウト細胞は、抗チューブリン薬に耐性を示しました。逆に、MCL1ノックアウト細胞は抗チューブリン薬に超感受性を示しました。さらに、細胞を抗チューブリン薬で処理して有糸分裂で停止させると、MCL1がリン酸化され、FBW7を介するタンパク質分解によってタンパク質量が低下しました。MCL1のリン酸化酵素としては、JNK、p38、CDK1などが考えられ、これらのリン酸化に拮抗する脱リン酸化酵素としてはPP2Aが考えられています。

これらの結果から、筆者らは、抗チューブリン薬を投与すると、がん細胞が有糸分裂で停止し、MCL1のリン酸化とFBW7依存的なポリユビキチン化とプロテアソームによる分解が誘導される結果、MCL1タンパク量とその抗アポトーシス作用が低下してがん細胞のアポトーシスがおこると推論しています。

問題は、抗チューブリン薬を投与するとMCL1がリン酸化されるメカニズムだと思います。Natureの同じ号に、”SCFFBW7 regulates cellular apoptosis by targeting MCL1 for ubiquitylation and destruction”というよく似た論文が掲載されています(論文をみる)。この論文でも、MCL1のデグロン部分にあるセリンとスレオニン残基のリン酸化が、FBW7依存的分解に重要だとしていますが、リン酸化する酵素はグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)だと書かれています。つまり、同じ部位がリン酸化されるとしているのに、本論文とリン酸化酵素が違います。まだ不明ということでしょう。

がん治療に広く用いられている化学療法薬には様々な種類がありますが、どのがんにどの薬物を用いるかについては、多くの場合、メカニズムではなく経験で決められています。化学療法薬は、この論文である程度解明されたように、何らかのメカニズムによってがん細胞のアポトーシスを誘導すると思われます。今後は、分子標的薬の開発だけではなく、このようなメカニズムの解明が進むと思われます。

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