「iPS細胞」多能性に限界 一部遺伝子の働きで識別
以下は、記事の抜粋です。
新型万能細胞「iPS細胞」の多くは一部の遺伝子が働いていないため、さまざまな細胞に分化する能力(多能性)に限界があるとのマウスでの研究結果を、米マサチューセッツ総合病院など日米の研究チームが4月25日付ネイチャー電子版に発表した。
これらの遺伝子が正常に働いているiPS細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)と同等の多能性があった。研究チームは「治療に使う場合、質の高いiPS細胞が欠かせないが、遺伝子の働き方によって見分けることができる」として、人間でも同様の違いがあるか確認することが重要だとしている。
研究チームは、同じ遺伝情報を持つマウスのES細胞とiPS細胞を比較し、iPS細胞では胎児の発育に重要な遺伝子が働いていないことを発見した。だが、さまざまな細胞をもとに作った60以上のiPS細胞株を調べると、中にはこの遺伝子が正常に働いているものもあり、これを使ってすべてがiPS細胞由来のマウスを誕生させた。
iPS細胞は、受精卵をもとに作るES細胞よりは多能性に限界があるとみられている。
論文のタイトルは、”Aberrant silencing of imprinted genes on chromosome 12qF1 in mouse induced pluripotent stem cells”です。以下は、論文の要約です(論文をみる)。
Induced pluripotent stem (iPS)細胞は、体細胞に一定の転写因子を強制発現させて作成されている。 しかし、iPS細胞がembryonic stem (ES)細胞と分子的かつ機能的に同等かどうかについては、未だ議論がある。
本研究では、遺伝的に同等なES細胞とiPS細胞を比較することで、mRNAとmicroRNAの発現パターンは、一部の例外を除いて同じであることを示す。その一部の例外とは、12qF1染色体のDlk1–Dio3遺伝子クラスター内でコードされる数個の転写産物で、これらはほとんどのiPS細胞で異常に発現が抑制(silenced)されている。
Dlk1–Dio3遺伝子クラスターは発生において重要な役割を果しているようである。というのは、これらの遺伝子発現が低い細胞は、ブラストシスト(胚盤胞)に移植しても、iPS細胞由来の細胞と胚由来の宿主細胞でできるキメラマウスにとりこまれず、結果としてiPS細胞の生殖細胞への分化や全身がiPS細胞に由来するマウスの作成ができなかった。
対照的に、Dlk1–Dio3遺伝子クラスターが正常に発現しているiPS細胞は、キメラマウスに高度にとりこまれ、全身iPS細胞マウスもうまく作成できた。
興味深いことに、Dlk1–Dio3遺伝子クラスターの発現が低いiPS細胞をヒストン脱アセチル化酵素阻害薬で処理したところ、遺伝子発現が活性化され、全身iPS細胞マウスが作成できた。
このように、iPS細胞とES細胞を区別すると思われる1つの遺伝子クラスターの遺伝子発現を調べるだけで、ES細胞と同等の多能性をもつiPS細胞を同定できることがわかった。
ニュースのタイトルや結論から想像されるような、ネガティブな結果ではなさそうです。
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