マイグラスタチン誘導体は、fascinを分子標的として腫瘍の転移を阻害する

Migrastatin analogues target fascin to block tumour metastasis

以下は、論文の要約です。


腫瘍の転移は、がん患者の主な死因の一つであり、転移を防ぐための新しい治療法の開発がつよく望まれている。

マイグラスタチン(migrastatin)は、ストレプトマイセス(Streptomyces)によって分泌される天然物で、マクロケトンなどの合成マイグラスタチン誘導体は、転移性腫瘍細胞の移動、浸潤や転移の強力な阻害薬である。

研究者らは、これらのマイグラスタチン誘導体は、アクチン結合タンパク質であるfascinを分子標的としてその活性を阻害することを明らかにした。X線結晶解析によって、マイグラスタチン誘導体がfascinのアクチン結合部位の一つに結合することが明らかになった。

これらの結果は、微小管タンパク質チュブリンが抗がん薬の分子標的になったのと同様、fascinのようなアクチン細胞骨格系タンパク質が、がん治療薬の新しい分子標的となることを示している。


Nature誌の日本語訳では、「ミグラスタチン」と書かれていますが、日本では「マイグラスタチン」が一般的のようですので、こちらを使います。

マイグラスタチンは2000年、慶応大の井本らがStreptomycesから単離したマクロライド系抗生物質で、ヒト腫瘍細胞の遊走および足場独立増殖を阻害する作用や、マウスのRas変異線維芽細胞の形態を正常化する作用が示されています。

腫瘍細胞の遊走は、がん転移のプロセスの一部ですので、マイグラスタチンおよびその誘導体は、がん転移抑制作用を示します。正常な細胞に影響を与えない、安全性の高いガン転移抑制薬の開発につながることが期待されています。

本論文は、マイグラスタチン誘導体マクロケトンの分子標的としてfascinを同定し、fascinのアクチン結合活性阻害作用が、がん細胞転移阻害の分子メカニズムであることを示しました。具体的には、fascinのアクチン結合部位の一つを構成する474番目のヒスチジンをアラニンに置き換えた変異fascinをもつ腫瘍は、マクロケトン耐性を示しました。

fascinは、分子量55kDのタンパク質で、βカテニンに結合し、上皮細胞や内皮細胞の運動先端部分や辺縁部分にβカテニンと共局在しています。いかにも転移に関連していそうなタンパク質です。臨床的にも、fascin発現量の多い乳がんは、全体として生存率が低く、特に転移無しの生存率が低いそうです。これらのデータは、fascin発現量とがん転移とがん死の強い関連を示しています。

マイグラスタチン誘導体の今後の展開に期待したいと思います。

migrastatinの構造

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