アフリカトリパノソーマ症(以下、睡眠病)の治療薬、Acoziborole Winthrop

アフリカ睡眠病の画期的な新薬をサノフィが無償で提供する
以下は、記事の抜粋です。


アフリカトリパノソーマ症(以下、睡眠病)は、吸血性のツェツェバエに刺されて伝播する寄生虫2種によって生じます。今回、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)が承認を了承したAcoziborole Winthropの用途は、アフリカの中央と西部で広まるその1つのガンビアトリパノソーマ(Trypanosoma brucei gambiense)による睡眠病の治療です。睡眠病の大半はそのガンビアトリパノソーマが原因です。

感染の初期症状は発熱と頭痛で、他の病気と見紛うことが多々あります。寄生虫が脳(神経系)に侵入する重症段階になると、その病名のゆえんである寝起きのサイクルの逆転などの異常行動が生じます。治療しないままの患者はやがて昏睡に陥り、ほぼ全員が命を落とします。

内戦で荒れた2000年代初期のスーダンの病院に運ばれてきた睡眠病の兵士は看護師に激怒したかと思えば治療の途中で行方不明になることもありました。脳に至った寄生虫は攻撃性や精神症状などの症状を引き起こして振る舞いの劇的な変化をもたらします。それゆえ睡眠病の患者を病院に留まらせることは非常に困難で、2週間ほどの治療期間に脱走しないように誰かが付き添っている必要がありました。

睡眠病治療の現状はそのように手間で、複数回の投与、点滴静注、筋肉内注射、入院を要します。治療を決める病期判定には、脊髄に針を刺す腰椎穿刺で脳脊髄液を採取して神経系に寄生虫が到達しているかどうかを調べる検査が含まれます。

Acoziborole Winthropは軽症か重症かを問わず使用可能で、痛くて体を傷つける腰椎穿刺をする必要がありません。投与は1回きりなので、10日間の服用が必要な先発のfexinidazoleと異なり、医療者が繰り返しその服用を見届ける手間も不要です。

非営利団体DNDi(Drugs for Neglected Diseases Initiative)の創薬事業で見つかったAcoziborole Winthropは、米国のバイテック企業Anacor Pharmaceuticals社の開発品に端を発します。2012年に始まった第I相試験でヒトに安全に投与できることが確認されました。

続く第II/III相試験はコンゴ民主共和国とギニアで実施され、重度の患者にも有効なことが裏付けられ、第II/III相試験ではガンビアトリパノソーマによる睡眠病(g-HAT)の患者208例にAcoziborole Winthropが単回投与されました。

トリパノソーマがCSFに及んでいたより重度の進行段階(second-stage)の患者167例のほとんどの159例(95%)が18ヵ月時点で治癒していました。治癒の定義はトリパノソーマが消失し、CSFの白血球数が20個/μL未満になっていることです。CSFにトリパノソーマが見当たらない感染後間もない段階(first- and intermediate-stage)の患者41例に至っては全員(100%)が18ヵ月月時点で治癒していました。

CHMPのお墨付きが今回得られたことで、睡眠病が多いコンゴ民主共和国などの国々でのAcoziborole Winthropの承認の道が開けます。

20年以上もの間DNDiと協力関係にあってAcoziborole Winthropを共同開発したサノフィが同剤を提供します。サノフィは世界保健機関(WHO)にAcoziborole Winthropを無償で寄付し、患者が無料で使えるようにします。

Acoziborole Winthropが相手するガンビアトリパノソーマによる睡眠病を2030年までに撲滅することをWHOは目指しています。Acoziborole Winthropはその目標達成を後押しするでしょう。


Acoziborole Winthrop(アコジボロール)の作用機序は、寄生虫のタンパク質合成に不可欠な酵素である「ロイシルtRNA合成酵素(LeuRS)」を阻害することです(説明をみる)。

詳細は以下の通りです。
●標的酵素の阻害: 寄生虫 Trypanosoma brucei(アフリカ睡眠病の病原体)内のロイシルtRNA合成酵素(LeuRS)を特異的にブロックします。
●タンパク質合成の停止: この酵素が阻害されると、寄生虫はアミノ酸のロイシンをtRNAに結合できなくなり、生存に必要なタンパク質を生成できなくなります。
●寄生虫の死滅: 最終的に寄生虫の増殖が止まり、死滅に至ります。

ロイシルtRNA合成酵素(LeuRS)はヒトの細胞内にも存在します。しかし、「ヒトの酵素」と「寄生虫(トリパノソーマ)の酵素」の構造に微妙な違いがあります。

アコジボロールは、トリパノソーマのLeuRSの活性部位にある特定の構造(エディティング・ドメイン)に強力に結合するように作られています。ヒトのLeuRSにはこの薬剤が結合しにくいため、寄生虫の酵素を優先的に阻害し、臨床試験や研究において、治療に必要な濃度ではヒトの細胞に対する毒性が十分に低いことが確認されています。

耐性寄生虫が出てこないことを願います。

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