それ、戦争じゃなくて逮捕です――ベネズエラ攻撃、マドゥロ連行と世界がすげえ困るアメリカの論理を整理してみた
以下は、山本一郎さんの記事の抜粋です。
この記事は、25年1月4日午前3時30分に書き始めています。そんなわけで年始早々ベネズエラにアメリカが思い切り武力介入していて大変なことになっているわけですが、アメリカがベネズエラに「法執行」を口実に強行突破する可能性そのものは示唆されていたことを考えると大変に面倒なことになりつつあるなと思うわけです。
いまさっき、アメリカ大統領・トランプさんも会見をしていたのを観ましたが、風邪でもひいているのか若干体調が悪そうだったのが印象的な割に、喋っている内容はパナマ事案と同じケルフリスビー法理だったので、これはルビオさんが上院議員の時代に喋ってて「危険人物なんじゃねえの」と思われていたものとほぼ同じ理屈で介入したことになります。
情報分野でもそれなりに大騒ぎで、本来ならばパラグアイやアルゼンチンのように現地アメリカ情報部門が政治介入して不安定工作したり政権転覆させたりして国際法を守って他国をコントロールすべきところ、野党と一部軍部によるクーデターではなくアメリカ軍が直接ベネズエラ軍に空爆して特殊作戦をやり、大統領のマドゥロさん夫妻「だけ」アメリカへ連行し裁判を受けさせる、というやり口になっているため非常に禍根を残す展開になっています。
日本もこれを見て「ですよねー」とアメリカの方針に迎合するのか、いやさすがにやりすぎでしょうと不支持に回るのか、事実関係を確認してから見解を出すいったん保留で行くのかよく分からん状況になっております。どうするんすかね。
問題の発言は何を主張しているのか
んでまあ行動予見されていたのは2025年7月、マルコ・ルビオ さんによって行われた、X(旧Twitter)上でのベネズエラの現マドゥロ政権を強く非難する投稿にあります。いろいろ書いてましたが、その内容は端的に言えば、要するに「ニコラス・マドゥロさんはベネズエラ大統領ではなく、正統な政府でもない」という断定です。
で、この発言は単なる強い言い回しや政治的レトリックではありません。ルビオさんはさらに踏み込み、マドゥロさんを「カルテル・デ・ロス・ソレス(太陽のカルテル)のトップであり、国家を乗っ取った麻薬テロ組織の首領である」と位置づけました。そして、アメリカ国内に麻薬を流入させた罪で、すでに刑事訴追の対象になっている人物だと述べています。
ここで重要なのは、この発言が国家対国家の視点からの「外交的批判」ではなく、「犯罪者認定に近い言説」として構成されている点です。
マドゥロ政権をどう位置づけているのか
さらに、周辺のルビオさんの発言を整理すると、論点はだいたい大きく4つに分けられます。
第一に、マドゥロさんは民主的に選ばれた正統な大統領ではないよ、という点です。選挙の公正性や正当性が否定されており、アメリカ政府としては国家元首として認めないぞ、という立場が明確に示されています。そうですか。
第二に、マドゥロ政権そのものが「正当政府ではない」とされています。これは国家承認の問題であり、通常の外交関係の前提を否定する極めて強い立場です。他方でベネズエラで粘度の高い原油を産出し、これにアメリカ産の軽い燃料を持って行って現地製油所でブレンドしている国営石油会社PDVSAとアメリカ資本もあるわけですが、アメリカがなぜか海上封鎖してしまったのでベネズエラ産ブレンド原油は(アメリカ資本が入っているのに)輸出できず、溢れそうになっています。なお、主たる輸出先は中国です。
第三に、ベネズエラ国家は実質的に麻薬カルテルに掌握されている、という認識です。「カルテル・デ・ロス・ソレス」は、軍高官や政権中枢が関与するとされる麻薬密輸ネットワークであり、マドゥロさんはその中心人物だとされています。で、これが本当なのかどうかは現段階では諸説あります。というか、よく分かりません。裁判でも始まり、アメリカ内外のマスコミも実態報道をもっとするでしょうから、真偽のところはこれからといったところかと思いますけれども、私たちは大量破壊兵器を持っているとされたサダムフセインさんを滅ぼすためにイラクに湾岸戦争を仕掛けてみんなそれに乗っかっちゃったという原罪があ(略
第四に、こうした行為について、マドゥロさんはすでにアメリカの司法当局から起訴されている、という点です。つまり、政治指導者ではなく、国際的な麻薬犯罪の被疑者として扱われている、という整理になります。ここで、俺様国家アメリカのアメリカたるケルフリスビー法理なるものが登場することになります。
これは外交発言ではなく「法的シグナル」
この発言の核心は、強い言葉そのものではありません。むしろ重要なのは、国家元首としての地位や免責を意図的に剥ぎ取る構造になっている点です。
国家元首である限り、本来は主権免責や元首免責といった国際法上の保護が及びます。また、アメリカがこのような行為を行うためには上院の承認が必要です。しかし、「そもそも大統領ではない」「政府も正統ではない」と宣言してしまえば、その前提自体が消えます。よって、本件は宣戦布告もされておらず、そもそも宣戦布告権の布告には連邦議会の承認が必要で大統領が単独で発することはできません。ただ、国内犯を捕らえるんだよベイベーとなればそんなもんは要らんというのが後述するケルフリスビー法理のため、まあそれを言い始めたら何でも段取り無しにできちゃうよねってことじゃないかと思います。
結果として、マドゥロさんは「外国の指導者」ではなく、「国際犯罪組織のトップ」という枠組みに落とし込まれます。少なくとも、アメリカ・トランプ政権内における整理としては。ここまでくると、外交問題ではなく、刑事司法と治安の問題だよ、という話になるのであります。
ケル=フリスビー・ドクトリンとは何か
ここで関係してくるのが、アメリカ刑事司法の考え方である「ケル=フリスビー・ドクトリン」です。考えれば考えるほど蛮族のような仕組みですが、重要なので解説しておきましょう。
これは、「被告人がどのような経緯でアメリカの法廷に連れてこられたかは、裁判の有効性に影響しない」という原則です。拉致であろうと、強制移送であろうと、裁判管轄は失われない、という非常に強硬な、実にアメリカンな考え方です。やったぜ☆
この原則は、19世紀末と20世紀半ばの連邦最高裁判決を通じて確立されました。人権侵害の問題と、裁判を行う権限の問題は別物だ、という整理がなされています。で、このドクトリンが実際に適用された象徴的な例が1989年から90年にかけてのパナマ侵攻と指導者であった将軍ノリエガさんの一件です。ノリエガ将軍は事実上アメリカ軍によって拘束され、アメリカ国内で裁判にかけられ、有罪判決を受けました。言い換えれば、中南米はアメリカの裏庭だぞ的モンロー主義2.0みたいなものなので、日本にとっても非常に危険な考え方に当たります。
さらに、ちょっと毛色は違いますが911テロの首謀者とされたイスラム系テロ組織アルカイーダの指導者ウサマ・ビンラディンさんがアメリカ特殊部隊により11年5月2日に射殺された件、さらにその息子サルド・ビンラディンさんが09年8月ごろ、ハムザ・ビンラディンさんが19年3月ごろ射殺された件は、いずれもアメリカ司法による有罪判決を受けて大統領令で作戦が決行され、主権国であるパキスタンの表立った承認は特に無いなかで執行されていることも視野に入れておかなければなりません。さすがアメリカだぜ。
この前例が示しているのは、「実質的な国家元首であろうが、他の主権国に潜伏していようが、アメリカ司法からこいつぁ犯罪者だと認定されれば何の例外もない」というアメリカ流の現実主義です。
ルビオさんの発言は、まさにこの延長線上にあります。マドゥロさんを国家元首として扱わず、麻薬犯罪の首謀者として定義することで、ケル=フリスビー法理が理論上適用可能な状態を作り出しているのです。
なぜここまで踏み込んだ表現を使うのか
まあ要するにフェンタニル禍を含め蔓延しているアメリカ国内の違法薬物事情が抜き差しならないことや、キューバ危機にも模される南米諸国への中国の浸透への対抗を考えると、トランプ政権のロジック的には「これは内政問題である」みたいな布石をルビオさんは大真面目に考えていたのだろうと思うわけですよ。それが納得できるのかどうかは別として。
その点では、外交交渉、制裁、資産凍結、第三国での身柄拘束、さらには軍事行動まで、どのカードを切るにしても、「相手が正統な国家元首ではない」という認識が前提にあれば、法的・政治的な障害は大きく下がります。それを誰が信じるのかは別として。
つまりこの発言は、感情的な非難ではなく、将来のあらゆる行動を正当化するための法的ナラティブの構築だと言えます。
んでこれはどうしたもんなのか
ここから先は日本も含めた国際社会の受け止め方になっていくと思いますが、単純にアメリカがどう考えようと、トランプ政権が何を言おうと基本的には国際法違反じゃないのという話にはなります。
これが成立するのであれば、ロシアは国内問題の解決としてウクライナに侵攻したことを止める理由が無くなってしまいますし、欧州も中国も日本も周辺国も寝耳に水だったと思われるので「なんやそれ」と言わないわけにはいかないでしょう。トランプ政権のベネズエラ攻撃は支持できないが、不支持だというには影響が大きすぎるので、事実関係を確認し、トランプ政権の正式な説明があってから反応する以外ないんじゃないのという感じはしますね。
ただ、筋論で言うならば日本も同盟国ではありながらアメリカのあり方について「それは駄目なんじゃないですかね(他にやり方があったんじゃないですかね)」という対応をするほかなく、年始早々面倒くさい難題を日米関係に持ち込まれたよなあという感じになるでしょう。
さらに、台湾有事に関する話も本件は極めてマイナスに作用すると見られ、一つの中国「原則」でも「政策」でもアメリカの理屈は中国の立場を尊重する内容と照らせば中国の国内問題とする両岸問題そのものが台湾の武力統一の口実になり得ます。武力行使はしなくとも、強制的な圧迫、海上封鎖、情報遮断などの手段を通じて台湾国民が統一やむなしの機運が中から生まれかねない面はあります。なにより、ベネズエラ攻撃はアメリカによるモンロー主義の代替として「東アジアの地域覇権は中国に」とトランプさん習近平さんの間で握られると頭越しにされた日本にとってはハシゴが外れることになりますので、正直看過できない問題です。
一方で、いままで中国が台湾に侵攻してもアメリカは参戦に議会承認が必要なため米大統領は台湾を守らないのではないかという議論はありましたが、今回のように議会など段取りは気にせず大統領の考えでベネズエラ攻撃しちゃうわけですから、その懸念のハードルはだいぶ下がってしまったかもしれません。
最悪の展開になるのはウクライナでしょう。ベネズエラ攻撃という事態に衝撃を受けて、欧州もウクライナも情報方面では緊張が走っております。まあ、いままでさんざんロシアの侵攻は武力による現状変更で会って容認できないと言っておきながら、その西側諸国民主主義陣営の盟主が蛮族のようなダイレクト攻撃を果たしてしまったので大義名分が無くなってしまうのです。かなり真面目に米欧軍事同盟の終わりを示唆する識者も続出するでしょうし、世界は大国が小国を踏みつけることがごく当然に起きる新しい世界新秩序を生み出すことになります。
結果的に、世界貿易は頭打ちになり、平和による持続的かつ世界的な経済成長は緩やかに終わりを告げ、大国によるブロック経済化が進んでいくなかで大規模な世界戦争が起きないように日本にできることは何か、ということを考える日々が訪れるんじゃないかと思っております。
おわりに
ルビオさんの発言は、アメリカ外交の中でもかなり「抜き身」に近いリアリズムを示しています。民主主義や人権といった理念を語りつつも、最終的には刑事司法と実力行使を視野に入れた論理が、冷静に組み立てられています。そういう論理を日本人として支持するべきなのかどうかは別として。
マドゥロ政権をどう評価するかは立場によって異なりますが、少なくともこの発言が、単なる政治的スローガンではなく、国際法とアメリカ国内法をまたいだ強いシグナルであることは間違いありません。その結果、仮に、いまの世界平和が壊れる方向にまたひとつ踏み出してしまうことを示唆するのだとしても。
「世界が困っているのはベネズエラ問題そのものよりも、大国同士が暗黙の了解のもとで小国を舞台に力を行使する、この構図そのものなのかもしれません。」と山本さんは追記で書かれていますが、本当にそうだなあ、と思います。

山本さんの記事にあったわけのわからない絵です。


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