海綿をクチバシにつけ、狩りを行うオーストラリアのイルカ
以下は、記事の抜粋です。
道具を使うことができるのは人間だけではない。オーストラリア大陸の西岸、西オーストラリア州のシャーク湾に生息しているバンドウイルカは、クチバシ(吻)に海綿(スポンジ)を乗せて狩りをすることが知られている。

この狩りの方法は「スポンジング」と呼ばれており、ターゲットとなるのはトラギスの仲間などの底生魚だ。この魚たちは浮袋を持たず、ふだんは海底に穴を掘って隠れている。
イルカは海底を掘り起こし、砂の中に隠れている魚を捕らえて食べるのだが、その際、砂の中の岩やサンゴなどが顔に当たる、とケガをしてしまう恐れがある。
そこでピエロがつけている赤い鼻のように、海綿をまるでフェイスガードのように装備した上で、海底に鼻先を突っ込んでかき回し、驚いた魚が砂から飛び出してくると、海綿を捨てて追いかけ捕まえるのだ。
シャーク湾に生息するバンドウイルカのうち、このスポンジングを行うのはわずか5%、30頭ほどにすぎないという。また、この「文化」は母から娘へと伝えられることはわかっていたが、なぜ同じエリアに住むイルカ全員ではなく、ほんの一部だけが行うのかも謎だった。
イルカは通常、エコーロケーションという能力を使って、獲物の位置を正確に把握する。自ら出した音の反射で、位置や形状、さらには材質までを認識できる。海綿はある程度エコロケーションに使われる超音波を弱めるが、完全には遮断しないことがわかった。
海綿が音を拡散してしまう事実も確認されたが、イルカたちはそれに適応し、エコーロケーションを補正できることもわかった。研究者らは、水中マイクを使ってスポンジングを行っているイルカたちがエコーロケーションを行っていることを確認した。
元論文のタイトルは、”Cultural transmission of animal tool use driven by trade-offs: insights from sponge-using dolphins. (トレードオフによる動物の道具使用の文化的伝播:海綿を使うイルカからの洞察)”です(論文をみる)。以下は、論文要旨からの抜粋です。
我々はスポンジがエコーロケーション、特に下顎に沿ったエコーの受信を妨害するという仮説を立てた。エコーロケーション信号がスポンジ組織を通過する際にどのように変化するかを評価するため、エコーロケーションのシミュレーションを行った。その結果、 スポンジの存在下で、エコーロケーション信号の音響特性が変化することがわかった。スポンジの歪みは海綿動物の種類ごとに異なるため、イルカは神経信号処理中に適応的かつ柔軟に補正する必要があります。これが、スポンジングの学習に長い時間がかかり、垂直伝播のみに限定され、道具使用者と密接な関係にあるにもかかわらず他のイルカに伝播しない理由を説明しています。
研究者らは、この研究でイルカがスポンジを道具として使うかどうかではなく、この「文化」が「なぜ母から娘へと伝えられるのかと、なぜ同じエリアに住むイルカ全員ではなく、ほんの一部だけが行うのか」について「スポンジがエコーの受信を妨害することが学習を困難にしているため」という仮説を立てて証明したということだと思います。


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