慢性腰痛治療で広がるサインバルタ処方
最近、デュロキセチン(サインバルタ®)をうつ病ではなく、純粋に腰痛治療のために服用している症例をみたので、少し古いですが、この記事を紹介します。以下は、抜粋です。
「慢性腰痛症にサインバルタ」と聞くと、抑うつ症状を伴う腰痛患者への処方を思い浮かべがちだが、同薬は、うつ症状の改善とは異なる機序で鎮痛効果を発揮する。SNRIの処方箋を見て、うつ病だと早合点しないよう注意が必要だ。
2016年3月18日、抗うつ薬として汎用されているセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のデュロキセチン塩酸塩(商品名サインバルタ)に、「慢性腰痛症に伴う疼痛」の適応が加わった。製造販売元の塩野義製薬によると、既に海外29カ国で腰痛症などの慢性疼痛の治療で適応を有している。
慢性腰痛とは、3カ月以上症状が続く腰痛を指す。2010年度の全国調査では、慢性疼痛保有者は推計2315万人存在し、うち腰痛が最も多く55.7%だった。すなわち、国内の慢性腰痛患者は約1300万人と考えられている。
現在、慢性腰痛には、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンなどの鎮痛薬、さらに、プレガバリン(リリカ)が処方されることが多いが、既存の治療薬では十分な効果が得られない患者は少なくない。そのため、今後、腰痛患者に対するデュロキセチンの処方が増えそうだ。
デュロキセチンは、内因性の疼痛抑制機構に関与するセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを抑制することで下行性疼痛抑制系を賦活化し、鎮痛効果をもたらすと考えられている。下行性の疼痛抑制系とは、脳から脊髄後角への伝達経路を介して、脳に伝えられる痛み刺激を抑制する仕組み。
デュロキセチンの国内治験はNSAIDsの効果が不十分な慢性腰痛患者を対象として行われ、プラセボ群に対する優越性が示されている(下図)。また50週間の長期投与試験でも、鎮痛効果の維持が確認された。
このような鎮痛薬としてのデュロキセチンの効果は、「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」(12年2月)、「線維筋痛症に伴う疼痛」(15年5月)への適応拡大という形で既に示されており、さらに現在、変形性膝関節症への適応拡大も申請中だ。
デュロキセチンはうつ病への適応を有する上、慢性腰痛には心因性のものも多いので、同薬はうつ状態の慢性疼痛患者に処方されるイメージが強い。しかし、デュロキセチンは、うつ状態や不安の有無にかかわらず、下行性の疼痛抑制系の賦活化という機序で、慢性疼痛を改善し得る。ただし、NSAIDsとは異なり、徐々に効果が表れてくる薬剤である。
便秘や、不安、焦燥、発熱といったセロトニン症候群出現の有無、相互作用などの確認は、うつ病患者にデュロキセチンを交付する場合と同じだ。
自殺企図や攻撃性の高まりなどの副作用も心配されており、厚生労働省は同薬の慢性腰痛症への適応追加に当たり、適正使用への留意を求める通知を出している。具体的には、同薬を投与する際は、(1)最新の診断基準に基づき慢性腰痛症と診断した患者に限定して投与すること、(2)精神神経系の副作用発現リスクを考慮し投与の適否を慎重に判断すること─を求めている。
デュロキセチンには、うつ病や慢性疼痛以外にも腹圧性尿失禁に対する有効性が認められている。実際、海外約30カ国で腹圧性尿失禁の適応を有する泌尿器系の薬として使われている。国内では、開発は進まなかったものの、くしゃみや咳による腹圧で生じる尿失禁を併存する患者では、失禁への効果も期待し得る。
一方、排尿障害を生じるリスクもある。デュロキセチンが再取り込みを阻害するノルアドレナリンは、尿道を狭くする効果を有する。特に前立腺肥大症患者への安易な処方で尿閉が生じる危険性がある。加えて、直腸膀胱障害を有する患者も、薬剤性の尿閉リスクが高い点で注意が必要だ。デュロキセチンを処方された患者に服薬指導する際には、基礎疾患の有無に加えて、泌尿器系の有害事象にも十分留意したい。
「内因性の疼痛抑制機構に関与するセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを抑制することで下行性疼痛抑制系を賦活化し、鎮痛効果をもたらすと考えられている。」というのがポイントです。前立腺の大きい男性高齢者には使いにくいですが、慢性腰痛に対する選択肢の1つです。
2019年5月に出た「腰痛診療ガイドライン 改訂第2版」では慢性腰痛に対する推奨薬としては、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、弱オピオイド、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液、NSAIDs、およびアセトアミノフェン〈すべて推奨度2〉が記載さ、坐骨神経痛に対する推奨薬としては、NSAIDs、Caチャネルα2δリガンド、およびSNRIが記載されています。
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