前立腺がん、胃がん、悪性黒色腫におけるRAFキナーゼ融合遺伝子の発現

Rearrangements of the RAF kinase pathway in prostate cancer, gastric cancer and melanoma
以下は、論文要約の抜粋です。


erythroblastosis virus E26 transformation-specific (ETS) ファミリーの転写因子を含む遺伝子融合は、前立腺がんで良くみつかるが、これまでのアプローチではこれらの遺伝子産物は「薬物の分子標的」にはならなかった。

最近、 anaplastic lymphoma receptor tyrosine kinase (ALK)遺伝子が含まれる、稀だが分子標的になる可能性がある遺伝子融合が肺がんの1-5%で同定された。この結果は、同様の稀な遺伝子融合が、前立腺がんなどを含む他の一般的な上皮性がんでもおこっていることを示唆している。

研究者らは、分子標的になる可能性がある遺伝子融合を、paired-end transcriptome sequencingという方法を使って、ETS再配列ネガティブの前立腺がんをスクリーニングした結果、SLC45A3-BRAF (solute carrier family 45, member 3–v-raf murine sarcoma viral oncogene homolog B1)とESRP1-RAF1 (epithelial splicing regulatory protein-1–v-raf-1 murine leukemia viral oncogene homolog-1) という2つの遺伝子融合を同定した。

前立腺細胞でSLC45A3-BRAFやESRP1-RAF1を発現させると腫瘍表現型が誘導され、この表現型はRAF阻害薬やマップキナーゼキナーゼ(MAP2K1)阻害薬に感受性を示した。

大規模コホートスクリーニングを行った結果、進行した前立腺がん、胃がん、悪性黒色腫の患者で、稀ではあるが繰り返しみられる染色体再配列がRAF経路におこる傾向が認められた。

以上の結果は、RAFファミリー遺伝子再配列(融合遺伝子形成)の発がんにおける重要性を示しており、RAFやMEKの阻害薬が遺伝子融合をもつ固形腫瘍の一部で有効である可能性が示唆された。

さらに、薬物の分子標的となる稀な遺伝子融合は、腫瘍トランスクリプトームや腫瘍ゲノムの配列決定を行うことで発見できることが示された。


慢性骨髄性白血病(CML)では、染色体再配列の結果生じた融合遺伝子(BCR-ABL)が発現して無制限な細胞増殖を引きおこすことや、融合遺伝子産物のチロシンキナーゼ活性を阻害する分子標的薬イマチニブが第一選択として広く用いられ、高い抗腫瘍効果が得られることは良く知られています。

固形がんでもこの論文で引用されているように、EML4-ALK融合遺伝子の発現が肺がんで発見されています。今年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)でも、大きな話題になったそうです。EML4-ALK融合遺伝子の詳細については、発見者の間野自治医大教授のMRICへの投稿を関連記事1としてリンクしましたので、そちらをご覧ください。

EML4-ALK陽性肺がんに対する分子標的薬開発競争ではPfizer社が他をリードしています。Pfizerのcrizotinibは、ALKとc-MET/HGF受容体チロシンキナーゼの両方の活性を阻害しますが、非小細胞肺癌(NSCLC)患者の第2相試験で優れた成績を残したそうです。間野さんも「ALK阻害剤(crizotinib)は、ヒト固形腫瘍の治療剤として現在人類が入手できるものの中で最も有効性が高い薬剤ではないかと思われます。」と投稿の中で書かれています。

また、EML4-ALK融合遺伝子の発現は、multiplex RT-PCR法を用いれば微量の喀痰や胸水から検出することができます(関連記事2参照)。

本論文で紹介されたRAFキナーゼとの融合遺伝子についても、RT-PCR法で発現を確認した後、RAFキナーゼ阻害薬やMEK阻害薬を投与するという治療法が普及して行くことになりそうです。

今後は、CMLや肺がんだけでなく、前立腺がんや胃がんなどでも、個々の患者のがんでどのような融合遺伝子が発現しているかを診断し、活性化されているシグナル伝達分子を同定した上で、その分子の活性を阻害する分子標的薬を投与するという治療がますます重要になると思います。

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