インタビュー◎処方する医師が急増中のバロキサビルだが……亀田がゾフルーザの採用を見合わせた理由 亀田総合病院感染症科部長の細川直登氏に聞く
以下は、記事の抜粋です。
亀田総合病院は、新規インフルエンザ薬のバロキサビル(商品名ゾフルーザ)について、今シーズンの採用を見送った。院内処方であるため、今シーズンに同院を受診した患者にはバロキサビルは処方されない。
(以下は、同院感染症科部長の細川直登氏のコメントのまとめです)
実臨床での使用実績が不十分、というのがその理由です。大きな期待とともに迎えられた新薬でも、実臨床で使用する中で予想されなかった副作用が生じ、市場から撤退する薬は多々あります。実臨床において有効性だけでなく安全性がきちんと評価された薬剤を使用するのが賢明と考えています。
バロキサビルについてのエビデンスとしては、今年9月にNEJM誌に掲載されたCAPSTONE-1 試験の結果と、今年10月の米国感染症学会で発表されたCAPSTONE-2試験の結果しか公のものはありません。
これまでに示されているのは、オセルタミビル(商品名:タミフル)と比較して、安全性・有効性ともに非劣性であることだけなのです。
一方、気になるのは耐性化です。バロキサビル投与後にアミノ酸変異のあるウイルスが小児患者の23%、成人では10%程度で検出されたと報告されています。ということは、この薬は、もしかしたら今使ってはいけない薬かもしれないとすら思うのです。
バロキサビルは、既存薬(NA阻害薬)とは作用機序が異なり、インフルエンザによる死亡率を減らす可能性を持つ新薬といえるでしょう。そのような薬剤を外来で多用し、それがウイルスの耐性化につながってしまったら、死亡率を減らす新薬となる芽を潰してしまいかねません。
死亡リスクの高い重症例に対するバロキサビルのエビデンスが出てきてからの採用でも決して遅くないと判断しました。亀田以外でも、バロキサビルの採用を見合わせている医療機関が複数あると聞いています。
実際、日本感染症学会インフルエンザ委員会は、まだ、バロキサビルの位置付けを定めていません。その理由として、エビデンスが不十分ということが影響しているように思います。
1回投与とはいえ、バロキサビル40mgの薬価は4789円で、オセルタミビル(タミフル)5日分の薬価2720円の1.76倍です。タミフルのジェネリックはさらに安く1360円ですので、バロキサビルはその3.52倍となります。
毎年、1000万人規模のインフルエンザ患者が受診しますが、1000万人をバロキサビルで治療すると、タミフルのジェネリックで治療した場合に比べて342億9000万円のコスト増となります。
有効性・安全性で同じであれば安い方がいいわけで、亀田ではインフルエンザの治療薬の第一選択薬はオセルタミビルとしています。ただし、私自身はオセルタミビルを処方することはほとんどありません。基礎疾患がない患者であれば葛根湯を処方するのみです。
オセルタミビルは、2017年にWHOによる「保健システムに最低限必要な薬のリスト(model lists of essential medicines)」から外されました。その判断の根拠の1つとなったのが、2009年のBMJ誌に掲載された論文といわれています(BMJ.2009;339:b3172.)。この論文は、ランダム化比較試験のメタアナリシスで、オセルタミビルやラナミビルというNA阻害薬は、インフルエンザによる症状を0.5~1.5日短縮するのみ。その一方で、副作用としての嘔吐が高頻度に生じると結論付けています。
素晴らしいコメントだと思います。
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