炎症性腸疾患、発症防ぐ物質発見…神戸大教授ら
以下は、記事の抜粋です。
腸に原因不明の炎症が起きる難病の炎症性腸疾患の発症や重症化にかかわる腸内のたんぱく質を見つけたと、神戸大の的崎教授らのチームが発表した。
炎症性腸疾患には、潰瘍性大腸炎とクローン病があり、いずれも腹痛や下痢などの症状が出る。国内の患者は約20万人と推定され、主に投薬で治療する。
チームはマウスを用いて、炎症性腸疾患の発症とかかわりがあるとされる腸の内側の組織を観察し、未知のたんぱく質を発見、「SAP-1」と名付けた。炎症性腸疾患を起こすよう遺伝子を改変したマウスに、さらにこのたんぱく質ができないようにしたところ、症状がより重くなった。
詳しく調べると、このたんぱく質は、炎症を起こす別のたんぱく質が腸の内側に集まるのを防いでいることが分かったという。的崎教授は「SAP-1の働きを強めることができれば、新たな治療薬の開発につながる可能性がある」と話す。
元論文のタイトルは、”Protein tyrosine phosphatase SAP-1 protects against colitis through regulation of CEACAM20 in the intestinal epithelium”です(論文をみる)。
SAP-1 (stomach cancer-associated protein tyrosine phosphatase-1) は、的崎氏が20年以上も前に同定した膜結合型のタンパク質脱リン酸化酵素です(論文をみる)。がん遺伝子の多くがリン酸化酵素であるため、発がんとの関連について多くの研究が行われ、既にいくつかの基質と思われるタンパク質も同定されています。 SRF accessory protein-1 (SAP-1)などとは別のたんぱく質です。データベースにはPTPRH(protein tyrosine phosphatase, receptor type, H)で登録されています(データベースをみる)。
ノックアウトマウスの作成は、2008年に報告されています(論文をみる)。その時の論文によると、SAP-1ノックアウトマウスは、成長、体重、栄養の吸収、腸の顕微鏡所見などでは正常で、野生型のものと差異はないようです。炎症性腸疾患の記載はありません。興味深いのは、大腸ポリープを多発する大腸がんのモデルマウスとダブル変異を作ると、アデノーマの数が有意に減少したそうです。
今回は、腸の炎症性疾患モデルマウス(interleukin (IL)-10ノックアウト)とダブル変異を作ると、炎症がひどくなったという話です。がんの話も炎症の話も、SAP-1をノックアウトする(完全に遺伝子を破壊する)という極端な条件での話です。これだけの事実から、SAP-1の働きを強めれば炎症がおさまり、ポリープが増える(これは嫌だけど!)とは必ずしもいえません。また、SAP-1は脱リン酸化酵素です。多くの種類の脱リン酸化酵素がありますが、脱リン酸化酵素の働きを弱める薬はいろいろあっても強くする薬は今のところ1つもないと思います。
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