肥満の人は「もう十分食べた」というシグナルに脳が反応する能力が損なわれ減量後も回復しないことが明らかに
以下は、記事の抜粋です。
新たな論文で、「肥満の人の脳は『もう栄養素を十分とった』という胃腸のシグナルに反応しなくなっており、減量後もその能力は回復しない」ということが示されました。
世界保健機関(WHO)によると、世界中で毎年400万人以上が肥満を原因とした病気で死亡しているとのことで、肥満に影響する生物学的要因を理解することは非常に重要です。2023年1月に発表された論文では、「マウスに高脂肪食を食べ続けさせるとカロリー摂取量を調節する脳の機能が破壊される」という研究結果が示されましたが、人間ついては理解されていない点も多く残っています。
イェール大学のミレイユ・サーリー氏らの研究チームは、BMIが25以下の標準体重である被験者28人と、BMIが30以上である肥満の被験者30人を募集して実験を行いました。
被験者らは、それぞれ間隔を空けて行われた3回の実験セッションに参加しました。セッションの前日、被験者らは全員が自宅で同じ食事をとり、翌朝になって栄養チューブを挿入されるまで何も食べなかったとのこと。研究チームは栄養チューブを通して「砂糖(グルコース)入りの水」「脂質入りの水」「ただの水」のいずれかを被験者の胃に直接送り、脳活動の変化をfMRIと単一光子放射断層撮影(SPECT)を用いて30分にわたり観察しました。
実験の結果、標準体重の被験者では糖または脂肪のいずれかが胃腸に送られると、線条体という脳領域の活動が減少することがわかりました。線条体は食物を摂取する時の報酬と動機付けに関連していることが判明しており、線条体の活動低下は「体に栄養が与えられた」と脳が認識したことを示唆しています。
また、線条体の活動低下と同時にドーパミンの放出も確認され、脳の報酬中枢も活性化されたことが示されました。サーリー氏は、「このように脳活動が全体的に低下することは、食べ物が胃の中に入ってしまえばさらなる食物を取りに行く必要がないため、理にかなっていると言えます」とコメントしています。
一方、肥満の被験者では糖のみが脳活動の変化を引き起こし、脂肪は脳活動やドーパミンレベルに変化を及ぼしませんでした。さらに研究チームは、肥満の被験者に12週間にわたる減量プログラムを実施し、体重の少なくとも10%を減量させてから再度同じ実験を行いました。ところが、体重が減ったにもかかわず、肥満だった被験者の脳は相変わらず脂肪に対して反応しませんでした。
サーリー氏は、「この発見は、ダイエットに成功しても数年後に体重が戻ってしまう人がいる理由を説明できるかもしれません」とコメントしています。
今回の研究結果は、体重が増加するどのタイミングで脳が変化し、脂肪に対する感知能力を失うのかを明らかにしておらず、遺伝子が特定の栄養素に対する脳の反応に影響している可能性も排除しきれません。そのため、研究結果を適切に解釈するにはさらなる研究が必要だとのこと。
サーリー氏は、「体重増加を解決するには食べる量を減らして運動量を増やせばよく、それができないのは意思が足りないからだという信念は、あまりにも単純で真実ではありません。肥満で悩んでいる人は、脳の問題が原因で食事量が減らせない可能性があることを知るのが大切だと思います」と述べました。
元論文のタイトルは、”Brain responses to nutrients are severely impaired and not reversed by weight loss in humans with obesity: a randomized crossover study(栄養素に対する脳内反応は、肥満のあるヒトの減量によって著しく損なわれ、元に戻らない:ランダム化クロスオーバー試験)”です(論文をみる)。
12週後の脳の反応に変化がなかったのは確かに予想外なのかもしれませんが、脳には可塑性があるので、この状態が永久に続くとも思えません。ダイエットでリバウンドが来ないヒトもいるので、そのあたりも調べてもらうとありがたいです。
実験では、肥満のヒトと正常体重のヒトとの違いは、脂肪に対する反応だけで糖に対しては変わらないということですが、これでここまで説明して良いのかとも思いました。
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