以下は、記事の抜粋です。
父親ラットが脂肪分の多い餌を摂取していた場合、生まれた子ラットの雌はインスリンを出す細胞に異常が見られ、糖尿病予備群の状態になることを、豪州の研究チームが突き止めた。遺伝的要因ではなく、父の生活習慣が子の糖尿病の発症、進行に結びつくことを示した研究は初めてだという。
研究チームは、雄ラットを生後4週目から高脂肪食、普通食の2群に分け、14週目に普通食で飼育した雌と交配させた。高脂肪食の雄は普通食群より体重が重く、インスリンの効きが悪く血糖値が下がりにくいなど糖尿病予備群の状態になっていた。
雌の子ラットだけを対象に比較した場合、体重や空腹時の血糖値に違いはなかったが、高脂肪食ラットを父に持つ雌は、普通食ラットを父に持つ雌と比べ、生後6週目から食後の血糖値が上がりやすく、インスリンの分泌も少なかった。インスリンを分泌する膵臓のβ細胞を調べると、β細胞の占める面積が減り、特に大きめのβ細胞の数が減っていた。
元論文のタイトルは、”Chronic high-fat diet in fathers programs β-cell dysfunction in female rat offspring”です(論文をみる)。
これまで、母親の肥満が子供の肥満や代謝に悪い影響を与えることはわかっていましたが、父親の肥満がどの程度影響するのか、特にその非遺伝的要因についてはわかっていませんでした。
この論文は、父親の精子には、DNA配列情報以外の生活習慣情報も詰まっていることを示しています。
毎日新聞の記事では、「特に大きめのβ細胞の数が減っていた。」と書かれていますが、これは誤りで、β細胞の大きさは変わっていないと思います。β細胞の集まりである「ランゲルハンス島(ラ氏島)」について、大きなラ氏島が減って小さなラ氏島が増えたと論文には書かれています。
父親の高脂肪食は、娘で642個の膵島遺伝子の発現を変化させたそうです。これらの遺伝子は、陽イオンあるいはATPとの結合、細胞骨格および細胞内輸送を含む13の機能クラスターに属していました。
さらに、発現に変化が認められた2,492個の遺伝子に対するより広範なパスウェイ解析では、カルシウム、MAPKおよびWntの各シグナル伝達経路、並びにアポトーシスおよび細胞周期への関与が示されたそうです。
感想としては、「ホンマかいな?」が正直なところです。私は、薬を与えて反応がどのくらい変化したかを研究することが中心だった「薬理学教室」の出身ですが、その時の恩師に「2割以上の変化はホンマやけど、2割未満の変化は怪しい」と教えられました。今でも、この教えは正しいと思っています。
この論文のTable2に書かれている発現の変化があったという77個の遺伝子の中、2割以上の変化があったものは10個だけです。私の知る限り、mRNAのマイクロアレイ解析は不安定です。n=5やn=6でP<0.05と書かれても、2割未満の変化は怪しいと思います。
エピジェネティックな変化が遺伝する可能性は十分にあると思いますが、この論文を見ただけではまだまだ信じられません。
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