アルコールとその代謝産物アセトアルデヒドは血液幹細胞のDNAに不可逆なダメージをもたらす

アルコールは幹細胞のDNAに不可逆なダメージをもたらすと判明
以下は、記事の抜粋です。


「適量のお酒」ですら脳の認知機能の低下を早めるとする調査結果が2017年に発表され、飲酒が体に与える影響が徐々に明らかになってきました。飲酒が幹細胞のDNAに不可逆なダメージを与え、ゆえにがんが引き起こされるのだとする証拠が示されています。

新たな研究はアセトアルデヒドに着目したもの。これまでの研究から、アセトアルデヒドはDNAやタンパク質に結合して付加体となり、さまざまな疾病に関与しているものと考えられています。ただし、過去の研究では高濃度のアセトアルデヒドについてラボの中・シャーレの上で実験が行われており、実際に人体の中での効果を追跡するものではありませんでした。一方で今回の研究は遺伝子を改変されたマウスを対象に行っています。

ヒトにはアセトアルデヒドを取り除き、DNAのダメージを取り除くという、2つの防御メカニズムがありますが、今回の研究で示された内容によると、アセトアルデヒドの毒性がこれら2つのメカニズムによって中和できない時にDNAが不可逆なダメージを負うとのこと。

特に1つ目の「アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH2)」がないマウスはDNAのダメージが大きくなることも判明。世界人口のうち8%は遺伝的にALDH2が弱く、これらの人の多くは東アジアをルーツにしていることから、中国は食道がんの患者数が多いといわれています。

今回の研究は血液中の幹細胞に着目して実験が行われました。2つの防御メカニズムを両方持持たないマウスは、10日間にわたって希釈したアルコールを投与された場合、血液を生み出す能力を完全に失ってしまったそうです。幹細胞のゲノムをDNAシークエンシングしたところ、マウスの細胞はもはや機能していないことが示されたとのこと。

ただし、飲酒によって食道がん・乳がん・大腸がんのリスクが上がると言われていますが、白血病など血液がんのリスクを上げるという証拠は見つかっていません。


元論文のタイトルは、”Alcohol and endogenous aldehydes damage chromosomes and mutate stem cells”です(論文をみる)。

論文によると、アルコール代謝産物のアセトアルデヒドが、DNAの2本鎖切断を生じさせ、結果として、がん化の原因となる染色体の再配列を生じさせるそうです。DNAのダメージを取り除くメカニズムというのは、p53という修復酵素だと思います。

関連記事に書いたように、アルコールの90%は肝臓で代謝されます。この代謝は主に1B型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH1B)と2型アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH2)によって行われています。アルコールは、まず1B型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH1B)によってアセトアルデヒドに代謝され、次に2型アルデヒドデヒドロゲナーゼによって酢酸に代謝されます。その後、二酸化炭素と水になります。

”rs1229984″(その他、”Arg48His”、”ADH2*2″、”ADH1B*2″など)とよばれるSNP(一塩基多型)があります。rs1229984がコードするADH1B酵素では、48番目のアミノ酸であるアルギニンがヒスチジンに変異した結果、酵素活性が野生型の対立遺伝子がコードする酵素と比べて約80倍高くなります。つまり、rs1229984を持つヒトの方が野生型の対立遺伝子を持つヒトよりもアセトアルデヒドができやすい。というわけで、rs1229984を持つヒトは、お酒を飲むとすぐに赤くなり、たくさん飲んでもあまり良い気分にはならず、アル中にもなりにくいとされています。

つまり、アセトアルデヒドをたくさん作るヒトは、お酒をあまり飲まないと考えられています。”Association between alcohol and cardiovascular disease: Mendelian randomisation analysis based on individual participant data”(論文をみる)という論文によると、rs1229984を持つヒトのアルコール消費量は、野生型のヒトと比べて、1週間のアルコール消費量が17.2%少なく、血圧、血中interleukin-6レベル、ウエスト周囲、BMIもすべて低かったそうです。さらに、冠動脈疾患や虚血性の脳梗塞のリスクも低かったそうです。

いずれにしても、お酒を飲んですぐに赤くなるヒトはあまりお酒を飲まない方が良いみたいです。

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