末期がん患者に対する全身療法は効果なし
以下は、記事の抜粋です。
化学療法、免疫療法、標的療法、ホルモン療法は、がんが進行して終末期に近い状態になったがん患者の生存率を改善しないことが、新たな研究で明らかになった。イエール大学がんセンターのMaureen Canavan氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に5月16日掲載された。Canavan氏は、「末期がん患者に治療を施しても生存率の改善は認められなかった。がん専門医はこの研究結果を患者に説明し、治療目標に関する話し合いを見直すべきだ」と述べている。
末期がん患者に対する全身性抗がん療法(SACT、Systemic Anticancer Therapy)は、入院率や集中治療室の利用率の増加、ホスピスへの移行の遅れ、生活の質(QOL)の悪化、医療費の増加と関連することが示されている。米国臨床腫瘍学会(ASCO)と全国品質フォーラム(NQF)は、このことを踏まえ、末期がん患者の終末期ケアを改善するために、「死亡前14日以内に化学療法を受けた患者の数」をNQF 021と呼ぶ指標として設定した。NQF 021の対象は、化学療法以外にも免疫療法や標的療法など全ての全身療法に拡大されつつある。
Canavan氏らは、電子健康記録のデータベースを用いて、死亡前14日以内に末期がん患者に実施されたSACTと患者の全生存期間(OS)との関連を検討した。対象患者は、2015年1月1日から2019年12月31日までの間に米国の280カ所のがんクリニックでステージIVのがん(乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、腎細胞がん、尿路上皮がん)の治療を受けた18歳以上の成人患者7万8,446人(平均年齢67.3歳、女性52.2%)であった。患者は、死亡前14日以内および30日以内のSACT実施率に基づき、がん種ごとに、実施率の最も低いQ1群から最も高いQ5群の5群に分類された。
対象患者の中で最も多かったのは非小細胞肺がん患者3万4,201人(43.6%)、次いで多かったのは大腸がん患者1万5,804人(20.1%)であった。解析の結果、がん種にかかわりなく、生存率についてQ1群とQ5群の間に統計学的に有意な差は認められないことが明らかになった。
Canavan氏はイエール大学のニュースリリースの中で、「われわれは、末期がん患者に対する腫瘍学的治療が生存率の改善と関連しているのか、あるいは治療継続は無駄であり、緩和ケアや支持療法に重点を移すべき時期があるのかを調べたかった」と述べている。
研究グループは、2022年に発表した研究で、末期がん患者に対する全身療法では、抗がん薬の使用が徐々に減少しつつある一方で免疫療法の使用が増加していることを報告していた。研究グループは、「SACTの実施状況は全体的には変わっておらず、死期が近い末期がん患者の約17%が、本研究で無駄な可能性が示唆された治療を今も受けている」と述べている。
研究グループは、「医師は、追加治療がいつ無駄になるのかを見極め、終末期近くのケアの目標について患者と話し合うことで、患者により良いサポートを提供することができる」と結論付けている。一方Canavan氏は、「この情報が、がん専門医が治療を継続するのか否か、あるいは転移を有する患者を支持療法に移行させるか否かを決める際に役立つことを願っている」と述べている。
元論文のタイトルは、”Systemic Anticancer Therapy and Overall Survival in Patients With Very Advanced Solid Tumors.(非常に進行した固形腫瘍患者における全身抗癌療法と全生存率。)”です(論文をみる)。
がんの免疫療法薬といえば、ノーベル賞を受賞した京大の本庶先生が小野薬品と争う原因となったオプジーボ®(ニボルマブ)が良く知られています。小野薬品のホームページには以下のように書かれています。がんに対する自分の免疫力を増強してがんをやっつけるイメージです。
●これまでのがんの治療は、手術、放射線療法、化学療法が3本柱と呼ばれてきました。これらの治療法は、直接がんを標的にした治療法です。
●一方、がん免疫療法は、薬が直接がん細胞を攻撃するものではなく、もともと体内に備わっている患者さん自身の「免疫」の力を利用して、がん細胞への攻撃力を高める治療法です。」
上の記事では、「末期がん」患者には使っても延命効果はないと書かれていますが、日本での適応は非小細胞肺がんの場合、<切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌>です(記事をみる)。おそらく、使っても延命効果のない「末期がん」が多く含まれているような気がします。上の記事で紹介したような臨床研究が必要だと思います。
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