日本でのAIによる雇用消失による楽観論について

「AIの脅威」が現実に、グローバル経済を牽引するはずだったインドとベトナムで起きていること…日本社会を襲う「ホワイトカラー大量余剰」の予兆
以下は、記事の抜粋です。


世界経済のサプライチェーン再編における「China+1(チャイナ・プラス・ワン)」の筆頭候補として、ベトナムとインドは多大な注目と期待を集めてきた。潤沢かつ若く優秀な労働力、旺盛な経済成長への熱気──両国はまさに21世紀のグローバル経済を牽引する存在になると誰もが信じて疑わなかった。しかし、現地の状況やデータを見る限り、その成長シナリオが順調に推移しているとは到底言い難い状況にある。

急速に進展する「生成AI(人工知能)と自動化の波」が、開発途上国の雇用構造を根底から揺さぶり始めているのだ。

ベトナムで急増する160万人ものニート問題、そしてインドで社会現象化し政治を揺るがす「ゴキブリ人民党」なる若者組織の台頭。これらは、AIが社会に深刻な脅威を与え始めた動かぬ象徴であろう。

そして、この遠く離れた途上国で起きている地殻変動は、日本にとっても決して他人事ではない。ベトナムとインドの現状は、近い将来の日本社会の姿を鮮明に映し出す鏡にほかならない。

ベトナム人の高い数学的能力と勤勉さを武器に、ベトナムはグローバルなITオフショア開発の拠点として確固たる地位を築いてきた。しかし、そのオフショア開発の仕事が、生成AIの台頭によって劇的な速度で奪われ始めている。かつて若手エンジニアが手作業で書いていたコードやデバッグ業務は、今やAIが瞬時に、かつ極めて低コストで完了させてしまうからだ。

打撃はIT業界だけにとどまらない。近年現地工場では生産ラインの自動化・ロボット化が猛烈な勢いで進んでいる。省人化技術の導入により、これまで成長を支えていた現場の「ライン工」の求人は急速に減少し始めた。

高度ITエンジニアの求人も、現場の製造ライン工の求人も同時に蒸発する──その結果として生み出されたのが、160万人という膨大な数のニートである。

高い数学的素養を持つ優秀なIT人材で世界を席巻してきたインドでも、AIの脅威はより過激な形で社会に表面化している。AIによる業務代替は、若者層の壊滅的な失業率の上昇を招いた。

2026年5月に最高裁判所の長官が、働かない(働けない)失業中の若者たちを非難する文脈で「ゴキブリ」と発言した。反発した若者たちが中心となり自然発生的に結成されたのが「ゴキブリ人民党」である。その入会資格はきわめて刺激的だ。つまり、「無職である」ことと「エリートの欺瞞に気づいた人」であること。

2026年夏には、医学部における不正入試疑惑を苛烈に糾弾して教育相を辞任に追い込み、さらに「選挙人名簿から1.3億人もの有権者が不正に削除された」として選挙管理委員会委員長を激しく追及、過激化するデモによって多数の逮捕者を出すなど、インド政治を混乱の渦に巻き込んでいる。

ベトナムとインドというChina+1の「期待の星」が、なぜこれほどまでに脆くAIの波に翻弄されているのか。その背景には、急激な経済成長への期待と、それに伴う「社会の急速な高学歴化」が存在する。

現在、短期大学や専門学校を含めた高等教育への進学率は、インドで約3割、ベトナムでは約5割にまで上昇している。両国の親たちは我が子をエリートに育てようと教育投資を行い、若者たちもまた高度な知識労働者(ホワイトカラー)を目指して大学を卒業した。

グローバル企業はコスト削減と利益極大化のために最も効率的な手段を選択する。AI技術が実用段階に入るやいなや、海外投資家やグローバル企業は、途上国の人件費すら削減してAIへと置き換えを推し進めた。急増した高学歴な若者たちが求めた「知的労働」のポストが、社会に出ていくまさにそのタイミングでAIに飲み込まれてしまったのだ。

日本ではAIによる雇用消失に対して、どこか人ごとのような楽観論が漂っているのではないだろうか。

確かに日本では、いまだに終身雇用慣行が根強く残っており、解雇規制も厳しい。高齢化に伴う介護やエッセンシャルワークの求人は山のようにある。さらに少子化によって若者人口そのものが減少しているため、「AIに仕事が奪われて街に失業者が溢れる」という実感が湧きにくいのが現状だ。

しかし、これは単に制度的プロテクションと人口構造のタイムラグによって、衝撃が表面化するのが遅れているだけに過ぎない。

ホワイトカラーの「データの収集・分析」「各種調査報告の調整や取りまとめ」といった業務は、最もAIと相性が良く代替されやすい領域である。経営の合理性から見れば、「高い給与を払って社員をリスキリング(再教育)する」よりも、「AIを扱える少数の優秀な若者や外部システムに置き換える」方がはるかに安上がりで効率的だ。

ホワイトカラー層がAIの普及によって存在意義を失うことになっていく可能性は、かねてより指摘されてきた。ベトナム、インドでは、その予想がまさに現実のものとなっている。これから数年のうちに日本も襲うことになる「ホワイトカラー大量余剰時代」の未来図だといえる。AIによるホワイトカラーの解体は静かに、しかし確実に進行していくだろう。

AIブームの華々しい光の影で、社会の安定を支えてきた中間層の崩壊という巨大な暗雲が私たちに近づいている。


「行き場を失った中高年層や、努力して高学歴を得たにもかかわらず相応の職が得られない日本の若い世代の不満が限界に達した時」は来るのでしょうか?高齢者ができる対策はあるのでしょうか?

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