投資家を惑わす日経の新薬についての記事

15年間諦めなかった小野薬品 がん消滅、新免疫薬
以下は、日経の記事の文章です。


日本人の死因のトップであるがん治療には、外科的手術や放射線治療、最後の手段として化学療法があるが、今この構図が大きく変わる可能性が出てきた。免疫を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬「抗PD―1抗体」が実用化されたからだ。世界に先駆けて実用化したのが関西の中堅製薬、小野薬品工業だ。画期的な免疫薬とは――。

■「オプジーボは革命的なクスリ」と高評価

「がん研究、治療を変える革命的なクスリだ」。慶応義塾大学先端医科学研究所所長の河上裕教授は9月から日本で発売が始まった小野薬の抗PD―1抗体「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)をそう評価する。

ニボルマブは難治性がんの1つ悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として小野薬と米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が共同開発した新薬だ。がんは体内の免疫に攻撃されないように免疫機能を抑制する特殊な能力を持つ。ニボルマブはこの抑制能力を解除する仕組みで、覚醒した免疫細胞によってがん細胞を攻撃させる。

世界的な革命技術として、米科学誌サイエンスの2013年の「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」のトップを飾った。今や米メルク、スイスのロシュなど世界の製薬大手がこぞってこの仕組みを使った免疫薬の開発を加速させている。

悪性度が高いメラノーマは5年後の生存率は1割前後という極めて危険ながんだが、米国、日本での臨床試験(治験)では「増殖を抑えるだけでなく、がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出た」(河上教授)。

米国での他の抗がん剤と比較する治験では既存の抗がん剤を取りやめ、ニボルマブに切り替える勧告も出たほどだ。肺がんや胃がん、食道がんなど他のがん種に対する治験も進んでいる。

世界の製薬大手が画期的な新薬開発に行き詰まるなか、なぜ小野薬が生み出せたのか。

1つは関西の1人の研究者の存在がある。「PD―1」という分子を京都大学の本庶佑名誉教授らの研究チームが発見したのは1992年だ。小野薬もこの分子に目をつけ、共同研究を進めた。PD―1が免疫抑制に関わっている仕組みが分かったのは99年で、創薬の研究開発が本格的に始まるまでにおよそ7年。実際の治療薬候補が完成し治験が始まったのは2006年で、開発から実用化までにおよそ15年かかったことになる。

当時は「免疫療法は効果が弱い」「切った(手術)方が早い」など免疫療法に対する医療業界の反応は冷ややかだった。医師や学会だけでなく、数々の抗がん剤を実用化した製薬大手も開発に消極的だった。

そんな中で小野薬だけが“しぶとく”開発を続けてきた背景には「機能が分からなくても、珍しい機能を持つ分子を見つけ、何らかの治療薬につなげるという企業文化があった」(粟田浩開発本部長兼取締役)という。

もともと小野薬は極めて研究開発志向の強い会社だ。売上高(14年3月期は1432億円)に対する研究開発比率は国内製薬メーカーでは断トツの30%台だ。しかもがん治療薬は初めて参入する分野で、「かならず成果を出す」という研究者の意欲も高かった。

小野薬は血流改善薬「オパルモン」とアレルギー性疾患治療薬「オノン」の2つの主要薬で高収益を維持した。だが、特許切れや後発薬の攻勢で陰りが出てきたところでもあった。
免疫療法に対する風向きが変わり始めたのは米国で抗PD―1抗体の治験が始まった06年からだ。一般的な抗がん剤はがんの増殖を抑える仕組みのため数年で耐性ができ、結局は延命効果しかない。しかし抗PD―1抗体で「がんを根治できる可能性も出てきた」(河上教授)。

■年間数百億円のロイヤルティー効果

副作用が少ないうえ、がんの増殖を止める、小さくする、消滅させる――。そうした治験結果が出始めたことで、国内外の研究者、製薬企業の免疫療法に対する見方が大きく変わった。ただ、効果が出ていない人も一定の割合で存在する。その場合は「他の抗がん剤や免疫療法と組み合わせれば、効果が上がる可能性がある」(粟田本部長)という。

足元の業績が低迷するなか、ニボルマブ効果で小野薬の市場評価は高まっている。昨年10月時点で6000円前後だった株価は今年に入って急騰。23日の終値は9340円とわずか1年足らずで3000円以上伸びた。アナリストも「今後数年でロイヤルティーだけで年数百億円は堅い」と分析する。小野薬の相良暁社長も「10年先を支える薬になるだろう」と自信をみせる。

ただメルク、ロシュなどが同じ仕組みの抗PD―1抗体の治験を拡大しており、国際競争に巻き込まれる可能性も高い。一方で他の製薬大手から小野薬がM&Aの標的となる懸念もある。その意味で同社が置かれている環境は必ずしも楽観視できない。

がんの新たな治療法の扉を開けた小野薬。日本発の免疫薬に世界の目が注がれている。
(高田倫志)


以下に説明するように、この記事は事実の歪曲と誇張に溢れています。

1.「がん治療には、外科的手術や放射線治療、最後の手段として化学療法があるが、今この構図が大きく変わる可能性が出てきた。」
Re:がん治療は、免疫治療薬「抗PD―1抗体」が実用化されるかなり前から他の分子標的薬の登場などで大きく変わっています。

2.「世界的な革命技術として、米科学誌サイエンスの2013年の『ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー』のトップを飾った。」
Re:関連記事に書いたように、トップを飾ったのは、「二種類の抗体薬を併用することにより、進行悪性黒色腫(悪性度が高いがんの一種)患者の半数に、腫瘍の縮小を確認できた」という内容の「がんの免疫療法」です。もう一つの抗体はイピリムマブ(ipilimumab、抗CTLA-4抗体)で、これには小野は関与していません。

3.「『悪性度が高いメラノーマは5年後の生存率は1割前後という極めて危険ながんだが、米国、日本での臨床試験(治験)では「増殖を抑えるだけでなく、がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出』(河上教授)。」
Re:メラノーマに対する治療は近年急速に進歩しており、BRAF阻害薬、MEK阻害薬、抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)などでも「抗PD―1抗体」とほぼ同等の結果が得られています。また、「がん細胞がほぼ消えてしまう患者も出」という評価(?)は、非科学的です。

4.「副作用が少ないうえ、がんの増殖を止める、小さくする、消滅させる――。そうした治験結果が出始めたことで、国内外の研究者、製薬企業の免疫療法に対する見方が大きく変わった。ただ、効果が出ていない人も一定の割合で存在する。」
Re:関連記事にあるように、抗PD―1抗体の臨床試験は、Johns Hopkins大のSuzanne Topalian教授が主導して、296人を対象に行われました。その結果、非小細胞肺がん患者18%、メラノーマ患者28%、腎臓がん患者27%の腫瘍が著しく縮小した。さらに被験者の5~9%に6か月以上の病状安定がみられたという結果です。イピリムマブとの併用により、その効果は有意に増強されました(記事をみる)。この併用による著明な効果が「ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー」として評価されました。

5.というわけで、「抗PD―1抗体で『がんを根治できる可能性も出てきた』(河上教授)」というのは、misleadingです。

6.アナリストも「今後数年でロイヤルティーだけで年数百億円は堅い」と分析する。小野薬の相良暁社長も「10年先を支える薬になるだろう」と自信をみせる。
Re:関連記事にあるように、2011年のライセンス契約では、小野薬品は本剤の北米以外の地域のうち、日本・韓国・台湾を除く全世界において独占的に開発及び商業化する権利をBMS社に供与しました。ということで、メラノーマの多い地域での開発はBMSが行っています。ロイヤルティーのことはわかりませんが、これ1つで会社が支えられるかどうかは怪しいと思います。

7.「ただメルク、ロシュなどが同じ仕組みの抗PD―1抗体の治験を拡大しており、国際競争に巻き込まれる可能性も高い。一方で他の製薬大手から小野薬がM&Aの標的となる懸念もある。」
Re:その通りだと思います。

関連記事
なぜ「がんの免疫療法」が“Breakthrough of the Year 2013“ なのか?
がん免疫を強化する新しい抗体医薬―抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体
「オプジーボ®」(ニボルマブ、nivolumab、抗PD-1抗体) 世界に先駆け承認へ

コメント

タイトルとURLをコピーしました