ミトコンドリアリボソームタンパク質は寿命の調節因子

抗生物質の投与だけで線虫の寿命を60%延ばすことに成功(スイス研究)
以下は、記事の抜粋です。


スイス工科大学(EPFL)の研究チームは、抗生物質の投与で線虫の寿命を60%延ばすことに成功したとする研究結果を5月22日のNature誌で発表した。

EPFLのJohan Auwerx氏らの研究チームは、一部の個体が他の個体よりも長生きする理由を解明する為の研究を続けている。Auwerx氏によると、線虫たちは単により長く生きただけではなく、同時により健康だったことにも言及している。

研究チームはまず、マウスで遺伝子発現の速度によって寿命に影響を与える3つの遺伝子を発見した。これら遺伝子の発現率が50%少ないマウスは他のマウスより250日間ほど長く生きた。これは通常の寿命の約30%にあたる。チームは次に、マウス実験で得られた結果を踏まえてタンパク質合成を操作し、線虫の寿命を最大60%延ばすことに成功したという。

実験では、ミトコンドリアに抗生物質を用いた。抗生物質の投与により線虫は19~30日間ほど長く生きたという。これは約60%の寿命延長にあたる。ミトコンドリアは、過去の研究で加齢に関わりが深いことが示されている。今回、EPFLのチームは、この過程に関わる遺伝子の同定を試み、ミトコンドリアリボソームタンパク質(MRP)の機能と寿命とが反比例していることを突き止めた。

また個体の初期発生段階におけるMRPの不足は、短期的には繁殖力の低下といった悪影響をもたらすが、長期的にはより強い筋肉構造や長寿といった好影響をもたらすという。このたびの研究結果を踏まえ、チームは、抗生物質の使用でほ乳類の加齢を抑制できるかどうかの確証を得るためには、さらなる研究が必要と強調している。


元論文のタイトルは、”Mitonuclear protein imbalance as a conserved longevity mechanism”です(論文をみる)。

研究者らは記事のように、マウスの長寿と関連する3つの遺伝子をSNP解析で同定しました。solute carrier family 12 member 1 (Slc12a1)、mitochondrial ribosomal protein S5 (Mrps5)およびtubulin tyrosine ligase (Ttl)です。これらの線虫ホモログについて、ノックダウンなどによる解析を行った結果、mrps-5(Mrps5)というミトコンドリアリボソームタンパク質S5をはじめとするミトコンドリアリボソームタンパク質(MRP)が代謝および寿命の調節因子であることを明らかにしました。

MRPをノックダウンすると、ミトコンドリアと核との間にタンパク質の不均衡が生じ、ミトコンドリアの呼吸が低下して、ミトコンドリア内ストレス応答(mitochondrial unfolded protein response)が活性化します。ドキソサイクリンやクロラムフェニコールや臭化エチジウムなどの薬品も、ミトコンドリアと核タンパク質不均衡(mitonuclear protein imbalance)を誘導します。これらが線虫の寿命を延長するとされています。

また、異なる標的分子をもつ寿命関連物質のレスベラトロールやラパマイシンも、線虫でミトコンドリア–核タンパク質不均衡、ミトコンドリア折りたたみ異常タンパク質応答、そして寿命延長を引き起こすそうです。

研究者らは、進化的に保存されたMRPファミリータンパク質が、ミトコンドリアリボソームとミトコンドリア–核タンパク質不均衡を、多くの種に共通の寿命関連経路であるミトコンドリア内ストレス応答に結びつけていると主張しています。

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