ブルースの世界における男と女の関係について

2週間前の記事で”Kind Hearted Woman Blues“について書いたとき、「Robert Johnsonは1931年に結婚し、子供もいましたが、1938年8月16日に27歳で亡くなりました。酒場でウイスキーを飲んだ直後に死亡したことから、嫉妬に狂った上記の人妻の夫に毒殺されたという説もあります。」と書きました。また、また、映画”Black Snake Moan“でも、妻が自分の弟と関係を持って家から出ていってしまった元ブルースミュージシャンが描かれています。

このように、ブルースで最も頻繁に登場するテーマは男女関係で、しかも純愛とかではなく「関係のもつれ」が多いようです。以下の2つが主な原因だと思われます。

1. 社会背景:1863年にリンカーンの「奴隷解放宣言」は出たものの、突然資本主義社会へ放り出された黒人達は奴隷以下の生活を強いられることも珍しくなかった。100年後の1963年にキング牧師の有名な”I have a dream”で始まる演説があったことを考えると、”Kind Hearted Woman Blues”が生まれ、マディーウォータースが南部からシカゴに出てきた20世紀前半も、黒人の社会進出は差別により強く制限されていた。

2. ヒトの生物学:男女関係は多くの場合、男性の性欲によって開始するが、時間の経過、特に結婚や同居によってパートナーに対する性衝動は次第に低下する。これは、どんなに性的魅力のあるパートナーでも変わらない。パートナーに対する性衝動が低下するとともに、パートナー以外の女性に対する性衝動は強くなる。

2はどこでも同じかもしれないですが、男性の職業も安定せず、アルコールやドラッグの溢れた1のような社会状況では、「男女関係のもつれ」が生じやすかったのでしょう。特に、ブルースマンの周辺は、もつれまくっていたと思われます。ロバートジョンソンだけではなく、ブラインドレモンも毒殺され、リトルウォルターは喧嘩での刺傷で死にました。やられるばかりではなく、サンハウスは殺人で服役しています。

1948年に発売されたマディーウォータースの”I can’t be satisfied”は、南部からシカゴに出てきた男の不満を歌ったものです。性的隠喩を含んだ過激な歌詞とパワフルな歌声がうけ、初回プレスの3000枚が2日で売り切れたそうです。

33歳で一躍「セックスシンボル」としてスターダムに上がったマディーの高揚感はさぞかし凄いものだったでしょう。映画キャデラックレコードでも、彼と共に苦労してきたパートナーを忘れてバンド仲間と女遊びに耽る様子が描かれていました。

このように、男性が突然いなくなる、あるいは職を失ったりする不安定な社会では、女性も強くなる必要があります。そのため、男を虜にする術(evil)を常に学んだのだと思います。―”She’s a kindhearted woman She studies evil all the time”。

ジミーロジャース、ライトニンホプキンス、ジョニーウィンターなどが歌っている”Back door friend”では、「すべての結婚している女性はback door friendを持っている。旦那が出かけたらすぐに彼が裏口から入ってくるんだ。」という歌詞があります。

下の動画は、映画”Black Snake Moan“からのクリップです。サンハウスも出てきて、「愛し合っていると思われる男と女のどちらかが相手を裏切る。そういうブルースな状況は殺人にも発展する。気持ち次第で何でもアリ。それがブルースの始まりだ。」と言っています。ブルースの世界では「男と女のもつれ」こそが重要なのです。

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