ドキソルビシンは心筋細胞のトポイソメラーゼIIβに作用して心臓毒性を引きおこす。

Identification of the molecular basis of doxorubicin-induced cardiotoxicity

以下は、論文要約の抜粋です。


ドキソルビシンは、酸化還元サイクリングと活性酸素種(ROS)の産生を介して用量依存的に心臓毒性を引き起こすと考えられている。

今回我々は、トポイソメラーゼIIβをコードする Top2b を心筋細胞特異的にノックアウトすると、ドキソルビシンによって引きおこされるDNA二本鎖切断とトランスクリプトーム変化が起こりにくくなることを示す。このトランスクリプトーム変化は、ミトコンドリア生合成障害やROS産生の原因となると考えられている。

さらに、Top2bの心筋細胞特異的ノックアウトマウスは、ドキソルビシンを投与しても進行性の心不全を発症しないことから、ドキソルビシンによる心臓毒性は心筋細胞のトポイソメラーゼIIβを介していると考えられる。


ドキソルビシンは分子標的薬が出てきた今でもがん治療に広く使われています。しかし、その用量依存的心毒性は特徴的な副作用として広く知られており、医師国家試験でも良く問われます。

ドキソルビシンの標的分子はトポイソメラーゼII (Top2)で、ドキソルビシンはDNAとTop2の両方に結合し、Top2-ドキソルビシン-DNAという3者複合体を作ることで細胞死を引きおこします。Top2には2つのアイソフォームTop2αとTop2βがあります。Top2αは細胞増殖のマーカーで、腫瘍では過剰発現していますが、分裂していない細胞ではほとんど発現していません。このため、Top2αが主に抗がん作用の標的だと考えられています。

これまで、ドキソルビシンの心毒性は、酸化還元サイクリングとROSの産生によるとされていましたが、このROS仮説はROSスキャベンジャーを投与しても心毒性を防げないことから疑われていました。

大人の心筋細胞にはTop2βは発現していますがTop2αは発現していません。ドキソルビシンはTop2βにも結合して3者複合体を作り、DNA二本鎖切断を誘導して細胞死へと導きます。そこで、著者らは、Top2βがドキソルビシンの心毒性の直接の原因であるとする新しい仮説を提唱し、証明したと主張しているのがこの論文です。

Top2βが抗腫瘍作用に関与していないとすれば、Top2α特異的な薬物を開発すれば副作用を減らせるだろうということと、Top2βの発現が多いヒトはドキソルビシンの副作用が出やすいので注意する必要があるということが本論文の意義のようです。

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