シルデナフィル(バイアグラ®)とBNPによる拡張期心不全治療の可能性

バイアグラで大事な組織がむしろ柔らかくなる効果、発見される

以下は、記事の抜粋です。


バイアグラは、男性器を硬くしたい人のための薬として知られています。が、ドイツのルール大学ボーフムの研究者らは、バイアグラには心臓の筋肉を柔らかくする効果もあることを発見しました。

同大学のウォルフガング・リンケ教授のチームは、バイアグラがある酵素を活性化させることを発見しました。その酵素は、心臓の筋肉にあるチチンというたんぱく質をリラックスさせ、より柔軟にできるのです。

もともとバイアグラは狭心症の治療薬として開発されていましたが、そちらでは期待された効果が出せませんでした。が、勃起不全の改善に役立つと言う副作用が発見されて注目が集まり、当初の目的とは違う形で人類の健康に貢献していました。

今回見つかったバイアグラの効果は、拡張期心不全という病気の患者の治療に役立つのではないかと考えられています。この病気は心臓の心室の壁が異常に硬くなってしまうもので、そうなると心臓に十分な血液が入らなくなります。バイアグラを使うと、この状態はほぼすぐに改善できるそうです。


元論文のタイトルは、”Sildenafil and B-Type Natriuretic Peptide Acutely Phosphorylate Titin and Improve Diastolic Distensibility In Vivo”です(論文をみる)。

Titin (チチンよりもタイチンと読むのが一般的、connectinともいう)は、心筋細胞の最小ユニット、サルコメアをアクトミオシン分子モーターとともに構成する3種類のフィラメントの1つです。タイチンはこれまで知られている最大のポリペプチドで、イソフォームによって異なりますが、分子量は約3-4M(300-400万)Daであり、コードする遺伝子TTNのエクソン数も363個で最多です。

タイチンは、筋肉の弾性に寄与する分子スプリングとして機能し、サルコメア形成時に太いフィラメントと細いフィラメントの長さを決定する“ものさし”としての役割を果たしていること、また、外力に応じ、それ自体が伸び縮みしてサルコメアの構造を変化させ、サルコメアの収縮力を可逆的に、かつ瞬時に調節していることなどが明らかになっています(下図、説明を見る)。

心臓のタイチンアイソフォームには、N2Bという硬いものとN2BAという柔軟なものの2つがあり、正常心筋での2つの比率は7:3ですが、冠動脈疾患などの病的心臓ではN2BAが半分近くまで増加することが知られています。ただし、病的心臓全体の柔軟性は繊維化の増加によって低下するそうです。

臨床的に明らかな心不全症状を伴うにもかかわらず、左室駆出率の保持された心不全(heart failure with preserved ejection fraction、HFpEF)は、心不全全体の30~50%を占めるそうです。HFpEFにおいては、間質の線維化などに加えて、心筋細胞自体の硬さ(stiffness)が亢進しており、それが2種類のタイチンの比率の変化や低リン酸化に関係するという説があります。

論文では、HFpEFモデルのイヌに、バイアグラ®(一般名:シルデナフィル)とBNPというペプチドを連続投与して、心筋組織中のタイチンのリン酸化や左室拡張期容量の増加を確認しています。記事に書かれているシルデナフィルが活性化する「ある酵素」とはcGMP依存性キナーゼだと思われます。これにタイチンがリン酸化されると柔軟になり、左室の拡張容量が増えると主張しています。BNPは、グアニル酸シクラーゼを活性化しcGMP産生を増やし、シルデナフィルは、cGMPを分解するphosphodiesterase (PDE)のPDE-5Aというサブタイプを特異的に阻害します。これらの連続投与によってcGMPが増え、タイチンのリン酸化が増え、左室が拡張するという話です。

現在、シルデナフィルとBNPによるHFpEF治療の臨床試験が進行中ということで、これを理論的に裏付けようとする研究のようですが、それほど強いエビデンスではないと思いました。

コメント

  1. taniyan より:

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    tak先生
    お早う御座います、今年も興味津々記事楽しみにしています。
    個人輸入で二人の友人が服用してました。
    自分は高血圧治療中でその気にならず。
    二人の友人はその後高血圧に見舞われ一人は断念、もう一人は高圧治療開始。
    もともと降圧作用あるのでこれを飲んだり止めたりすることが原因みたいです。
    服用継続で記事のような効果に合わせ降圧効果もあるなら飲んでみたいような気もします。
    しかしもう本来の効果は期待できない年齢では御座います。
    年齢と言うより多種薬剤服用が原因みたいです。
              taniyan

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