300種類のタンパク質キナーゼに対する178種類の市販キナーゼ阻害薬の包括的阻害活性解析

Comprehensive assay of kinase catalytic activity reveals features of kinase inhibitor selectivity

以下は、論文要約の抜粋です。


低分子のタンパク質キナーゼ阻害薬は、細胞内シグナル伝達経路の解析に広く使用されており、治療薬としても有望である。キナーゼのATP結合部位が進化的に保存されているため、この部位を標的とするキナーゼ阻害薬のほとんどは、多くのキナーゼを無差別に阻害する。

このような化合物を使用した実験結果の解釈は、それぞれの阻害薬が数多くのキナーゼに対してどの程度選択的に阻害するかという包括的なデータが存在しないために混乱している。

今回我々は、機能的アッセイを行い、組換えタンパク質キナーゼ300種類に対する178種類の市販されているキナーゼ阻害薬の活性プロファイルを調べた。定量解析の結果、キナーゼとキナーゼ阻害薬との間には複雑でしばしば意外な相互作用が存在し、その無差別性が大きいことが明らかになった。

標的分子以外との相互作用の多くが一見無関係なキナーゼとの間に見られたことから、大規模プロファイル解析によってはじめてキナーゼ阻害薬の多重標的性が明らかにされることがわかる。

この結果は、薬剤開発に大きな意味をもつと同時に、キナーゼの機能を明らかにするための化合物の選択、キナーゼ阻害剤を用いた実験の結果の解釈を行うための手助けを提供する。


同じ雑誌にside by sideで良く似た論文、”Comprehensive analysis of kinase inhibitor selectivity”が掲載されています(論文をみる)。こちらでは、キナーゼ442種類に対して72種類の阻害薬の効果を調べています。

論文では、用いた178種類の阻害薬のどれにも耐性を示す(阻害されない)キナーゼとして、COT1/MAP3K8、CTK MATK、DYRK4、GRK2、GRK3、HIPK1、JNK3、MAPKAPK3、NEK6、NEK7、P38d/MAPK13、P38g、VRK1、WNK3の14種類が紹介されています。逆に、YES/YES1、ARK5/NUAK1、RET、KHS MAP4K5、HGK MAP4K4、TRKC、FLT3などは、感受性が高く、複数の阻害薬で阻害されます。

本論文では市販の阻害薬を使っているため、最近話題のBRAF阻害薬vemurafenibやALK阻害薬crizotinibは用いられておらず、BRAFやALKは阻害薬がほとんどないところに分類されているのは残念です。できれば、今後も新薬の情報をドンドン追加していって欲しいものです。これをweb上で公開すれば、新しい分子標的薬の開発に非常に役立つでしょう。

関連記事に書いたように、慢性骨髄性白血病では、より多くの種類のキナーゼを阻害するダサチニブがイマチニブよりもよく効きます。また、イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍と根治切除不能又は転移性の腎細胞癌に使用されるスニチニブ(スーテント®)も約40種類のキナーゼを阻害することが報告されています(関連記事をみる)。このように、臨床効果と特異性との関係はまだ良くわかっていません。本論文のような包括的な解析がヒントになることを期待しています。

関連記事
チロシンキナーゼ阻害薬エルロチニブ(タルセバ®)に膵癌の適応が追加 TKIsは特異的阻害薬か?
慢性骨髄性白血病:イマチニブよりも良く効くダサチニブとニロチニブ

コメント

タイトルとURLをコピーしました