ドイツにおける大腸菌O104:H4の集団感染は新芽野菜が感染源である

German Outbreak of Escherichia coli O104:H4 Associated with Sprouts

以下は、論文要約の抜粋です。


背景:2011年5月、志賀毒素産生性大腸菌O104:H4による溶血性尿毒症症候群の大規模な集団発生がドイツで起きた。染源は特定されていなかった。

方法:研究者らは、感染源の特定を目的として、マッチさせた症例対照研究、レシピに基づくレストランのコホート研究、環境調査、原因を遡る調査とその原因から派生先を辿る調査を行った。

結果:症例対照研究では、溶血性尿毒症症候群26例と対照81例を調べた。症例の25%が新芽野菜を、88%がキュウリを食べていた。レストランKの客10グループに対して行われたレシピに基づく調査では、対象152人中31例(20%)が出血性下痢あるいは志賀毒素産生性大腸菌との関連が確認された下痢を発症した。新芽野菜を出された客は、発症する確率が有意に高かった(相対リスク14.2)。症例の100%が新芽野菜の摂取によって説明できた。レストランKに新芽野菜を供給した配給業者を追跡調査したところ、生産業者Aが割り出された。取引関係が明らかな場合は、すべて生産業者Aによって説明することができた。集団感染を引き起こしたと思われる菌は、関連が示唆されたフェヌグリークもやしの種子では同定できなかった。

結論:最も可能性の高い集団感染の媒体としてフェヌグリークもやしなどの新芽野菜が特定された。このことは、調査対象者が摂取したものを思い出す際に見落とす可能性のある食品を考慮に入れる必要があることを示している。


sprouts(新芽野菜)には多くの種類があり、上記論文で特定された北ドイツのNiedersachsenに栽培工場をもつ生産業者Aは、18種類の新芽野菜を作っているそうです。それらには、lentil(レンティル豆)、alfalfa(アルファルファ)、fenugreek(フェヌグリーク)、アズキ、にんにく、ブロッコリーなどがあるのですが、上記調査で特定されたのはフェヌグリークもやしです。フェヌグリークは、マメ科の一年草です。

フェヌグリークの種子はエジプトから輸入されたものだそうですが、上記のように種子の感染は証明されませんでした。新芽野菜は、温度も湿度も高い室内で大量栽培されるので、大腸菌も増えやすい環境だと思われます。おそらく、新芽野菜の有機栽培をおこなった生産業者Aの工場でO104:H4が増殖したのでしょう。

本論文で研究対象となったドイツでの食中毒は、日本での「焼肉酒家えびす」の食中毒事件の直後におこりました。3816人の患者と54人の死者を出した大事件でしたが、論文に書かれたような詳細な調査が行なわれ、原因の特定に至ることができました。一方、日本では科学的な原因究明は行なわれず、「えびす」に責任が押し付けられた形で事件が終息しました。

ドイツのO104:H4と日本のO117は非常に近い志賀毒素産生性大腸菌です。日本の食中毒事件の原因は本当に「えびすのユッケ」だったのでしょうか?

フェヌグリークもやし

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