乳がんのセンチネルリンパ節への微小な転移は患者の予後に影響しない

Women with early-stage breast cancer do not benefit from lymph node removal

以下は、記事の抜粋です。


センチネルリンパ節(がんに一番近いリンパ節)に微小ながん細胞があっても、早期乳がん患者の生存や予後に影響がないことが明らかになった。早期乳がん患者におけるリンパ節切除に関する独創的な研究と豊富な臨床専門知識で有名なGiuliano医師を中心として、American College of Surgeons Oncology Group (ACOSOG)によって行なわれた研究が、7月27日付けのJAMAに発表された。

これまでも、センチネルリンパ節と乳がんの診断に関連したGiuliano氏らの研究は、早期乳がん治療における従来のアプローチを変革してきた。今年の初めにJAMAに掲載された彼らの画期的な研究成果は、これまでのリンパ節郭清術(センチネルだけではなく、すべての周辺リンパ節を切除する手術)が手術後の生存率を上げるという既成概念に挑戦するものだった。むしろ、正反対の結果だった。即ち、リンパ節郭清術を受けた患者もセンチネルリンパ節だけを切除した患者も術後の生存率は同じだったのだ。この発見は、乳がん患者の外科治療を大きく変えた。患者は、広範囲リンパ節切除による痛みと副作用の苦痛から解放されることになった。

今回発表された研究では、乳がん近くのリンパ節に肉眼ではわからない顕微鏡レベルのがん細胞が存在する場合の生存率を調べた。このような「オカルト転移」と呼ばれる微小な転移は、通常の病理や臨床検査ではみつからない。センチネルリンパ節や骨髄の免疫組織化学的検査ではじめてみつかるものだ。

研究では、1999年5月から2003年5月までにアメリカ全土の126施設でのACOSOG臨床試験に参加した5,210例の乳がん患者のデータが解析された。Giuliano氏は、「今回の結果は、センチネルリンパ節への微小な転移は患者の予後に影響しないことを示している。」という。氏によるとリンパ節郭清は、リンパ浮腫(患者を消耗させる原因となる痛みを伴った慢性的な腕の腫脹)を起こす可能性があるそうだ。「治療はがんを止めるだけが目的ではない。がん治療終了後の患者のQOL(quality of life)を最大限にすることも重要だ。」という。


元論文のタイトルは、”Association of Occult Metastases in Sentinel Lymph Nodes and Bone MarrowWith Survival Among Women With Early-Stage Invasive Breast Cancer”です(論文をみる)。今年の初めにJAMAに掲載されたGiuliano氏らの研究についてのブログ記事はこちらです。

乳房保存的治療とセンチネルリンパ節切除を受けた女性において、センチネルリンパ節への転移が免疫組織化学的に確認できるかどうかは、生存率と関連していなかったが、骨髄への転移は微小でも生存率を低下させるというのが論文の結論です。

センチネルリンパ節を調べた患者5119例の中、1215例(23.7%)はヘマトキシリン・エオジン(HE)染色によりがんが同定されました。残ったHEネガティブ3904例の中、3326例を1型酸性ケラチン抗体などで免疫化学染色検査した結果、349例(10.5%)ががん細胞ポジティブでした。このように、HEネガティブかつ免疫化学染色ポジティブな転移を「オカルト転移」と呼びます。今回、センチネルリンパ節へのオカルト転移は、乳がん患者の生存率を低下させないことが明らかになりました。

これらの結果から、研究者らはセンチネルリンパ節の免疫化学染色をルーティーンに行なうことは推奨されないと結論しています。一方、骨髄へのオカルト転移については、有意に生存率を下げることが明らかになりましたが、本臨床試験における陽性率が低く(3%)技術的にも難しいため、骨髄へのオカルト転移検査をルーティーンに行なうこともまだ推奨できないとしています。

センチネルリンパ節(岩手医大のサイトより)

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