がん遺伝子に誘導されたNrf2の転写は、ROSを無毒化し、腫瘍発生を促進する

Oncogene-induced Nrf2 transcription promotes ROS detoxification and tumorigenesis

以下は、論文要約の抜粋です。


活性酸素(ROS)は突然変異をひきおこすため、発がんを促進すると考えられている。正常状態では、細胞のROSレベルは、ストレスによって誘導される転写因子Nrf2(別名Nfe2l2)とその抑制タンパク質Keap1によって制御される抗酸化プログラムによってしっかりとコントロールされている。

このような生理的なNrf2の調節とは異なり、腫瘍ではNrf2が常に活性化している証拠がある。実際、Nrf2–Keap1相互作用を阻害して、Nrf2の安定化とNrf2標的遺伝子の構成的転写を増加させるような体細胞変異が最近見つかり、ROS無毒化の増強やNrf2が腫瘍発生促進的な機能をもつ可能性が示唆されている。

研究者らは、Kras 、Braf 、Myc を発現したマウス初代培養細胞でのROS代謝について調べ、ROSがこれらがん遺伝子により抑制されることを見いだした。活性化型変異体であるK-Ras G12D、B-Raf V619E、Myc ERT2はそれぞれ、Nrf2の転写を促進してNrf2抗酸化プロラグラムを安定的に上昇させることで、細胞内ROSを低下させて還元的な細胞内環境をつくる。

このようながん遺伝子によるNrf2の発現増加は、Nrf2抗酸化プログラム活性化の新しいメカニズムであり、このことはK-Ras G12DやB-Raf V619Eを発現させたマウスの初代培養細胞や組織、及びヒト膵がんで証明された。さらに、Nrf2経路の遺伝子をノックアウトすると、in vivoでのK-Ras G12Dによる細胞増殖や発がんを阻害する。Nrf2による抗酸化並びに細胞無毒化プログラムは、新しい発がん促進因子である。


これまで活性酸素(Reactive oxygen species、ROS)は、核酸を障害し変異を生じるため、癌化をひきおこし、抗酸化物質は、発癌を抑制すると考えられていました。

一方、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ヘムオキシゲナーゼ(HO-1)などの酸化ストレス防御遺伝子群の発現を正に制御する転写制御因子Nrf2の発現が、肺がんや膀胱がんにおいて、遺伝子変異によって恒常的に高くなり活性化されている場合があることが知られていました。

Nrf2は、平常時では、酸化ストレスセンサーKeap1が結合して細胞質に留まっていますが、細胞に酸化ストレスが暴露されると、Keap1が酸化され、Nrf2はKeap1から離れて核へ移行し、酸化ストレス防御酵素群の遺伝子発現をオンにします(下図)。

本研究では、上記の要約に書かれていることに加えて、Nrf2を欠く早期がん細胞は、ROSレベルが高く、細胞老化に似た増殖停止を示しますが、この細胞を抗酸化剤処理するとがん細胞の増殖が回復することも示しています。

ビタミンA、C、E、ベータカロチンなどが、抗酸化作用があるサプリメントとして知られており、、動脈硬化などの予防のために摂取している人もいるようです。これらの摂取がいきなり発がんにつながることはないと思いますが、これらを摂取するとかえって死亡率が上昇するというメタ解析も報告されている(論文をみる)ので、この論文の結果と総合すると、抗酸化サプリメントを必要以上に摂取するのはやめた方が良いと思います。

酸化ストレスによるNrf2遺伝子の制御機構(ターゲットタンパクより)

コメント

  1. sibaちゃん より:

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    Nrf2スイッチをONにして、健康になるとのことで、日本へ上陸し、愛用者が増加しているUSAのサプリは危険ということでしょうか?

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