毒蛇に咬まれた時の応急処置のための薬理学的アプローチ

ヘビ毒の応急処置、軟膏で生存期間2倍に 豪研究

以下は、記事の抜粋です。


毒ヘビに咬まれた場合、リンパ腺の機能を遅らせる軟膏を傷口に塗り込むと、生存時間が50%も長くなるという研究結果が、6月26日発表された。

毒ヘビに咬まれて死亡する人は、世界で毎年10万人余りにのぼっており、咬まれた手または足を切断せざるを得ない患者も毎年40万人にのぼっている。現在行われている一般的な対処は、医者の治療を受けるまでの間、血流を抑えるために患者をできるだけ安静にするというものだ。

オーストラリアNewcastle大の研究チームは、血圧の調整と脳活動の制御に関わる分子である一酸化窒素(NO)が、急性脳卒中の患者で血圧を下げる効果があること、およびリンパ液を心臓に送り込むポンプ機構を遅らせる効果があることから、毒ヘビに咬まれた場合の治療法としてNOを放出する物質「NO供与体」に着目した。

ヘビ毒の多くに大型分子が含まれ、これが人体のリンパ系を通過して血流に流れ込むことは、既に知られている。研究チームは、NO供与体を患部に塗り込むと、毒がリンパ系を通過する速度が遅くなり、血流への流入も遅れ、毒性の発現も遅くなるのではと予想。被験者15人の片足に毒の疑似物質を注入し、NO供与体の軟膏を1分以内に塗った場合と塗らなかった場合で、疑似物質が鼡径部のリンパ節に到達するまでの時間を測定した。すると、塗った場合の平均到達時間は54分で、塗らなかった場合の平均13分に比べて4倍近く遅かった。

マウスでも、毒を注入したマウスにNO供与体の軟膏を塗った場合と塗らなかった場合で生存時間を比較してみると、軟膏を塗った方で50%も長かった。


元論文のタイトルは、”A pharmacological approach to first aid treatment for snakebite”です(論文をみる)。

多くの蛇毒は、その分子が大きいために咬まれた付近の静脈から直接血流に入ることはできず、抹消のリンパ管に入ってしばらく運ばれた後、心臓付近の大きな静脈から血中に入るそうです。このため、咬まれた場合の応急処置としては、蛇毒が全身に回らないように、リンパ流は止めるが血流は止めない程度に、圧迫包帯をして動かさないようにすることが一般的です。

リンパ流を制御する要素の中で安静時に最も重要なのは、リンパ管壁の平滑筋収縮によるものだそうです。この平滑筋収縮はnitric oxide (NO)によって阻害されることが知られているので、研究者らはNO供与体の局所適用が毒素のリンパ管輸送や全身循環系への浸入を遅らせることで、状況を改善できると考えました。

用いたのは、市販のニトログリセリン軟膏(Rectogesic Ointment® (0.2% wt/w), Care Pharmaceuticals)です。この軟膏は狭心症治療用ではなく、アナルクリームとして、切れ痔などの症状に使用されるようです。これは、NOが内肛門括約筋を弛緩させるためです(サイトをみる)。

今後、毒蛇のいる所へ出かける時には、切れ痔用クリームを携帯しましょう。ただし、日本ではニトログリセリン入りのものは市販されていないので、個人輸入する必要があります。

Rectogesic Anal Ointment (4NRX.co.ukより)

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