PhD大量生産時代

PhD大量生産時代

以前Nature Newsに掲載された”The PhD factory“の日本語訳がNatureダイジェストの7月号に掲載されています。「世界では、これまでにないハイペースで博士号(PhD)が生み出されている。この勢いに歯止めをかけるべきなのだろうか。」という書き出しで、日本、中国、シンガポール、アメリカ、ドイツ、ポーランド、エジプト、インド各国での状況が書かれています。

以下は、「日本:制度の危機」の抜粋です。


理系大学院の博士号取得者の進路を比べた場合、日本が最悪国の1つであることはほぼ間違いない。90年代に、政府は、それまでの3倍もの規模である「ポスドク1万人計画」を立て、博士課程の定員を大幅に増やした。目的は、日本の科学力を欧米諸国並みに高めることだった。目標の人数はすばやく達成されたが、ポスドクの就職先は今もなお満たされておらず、考えなしの政策だったと厳しく批判されている。

そもそも日本の学界はポスドクなど欲しがっていない。18歳人口は減少傾向にあり、大学は新たな教員を必要としていないからだ。産業界も同様で、伝統的に、実地で仕事を覚えさせることのできる若くてフレッシュな学部卒業生を求めてきた。

2010年に自然科学系博士号を取得した1350人のうち、卒業時までに常勤職への就職が決まったのは、全体の半数をやや超える程度(746人)にとどまった。その中で大学の科学・技術関連業務に就いたのは162人に過ぎず、残りの250人は産業界、256人が教育分野に就職し、38人が公務員になった。こうした暗い見通しもあって、日本では博士課程への進学者数が減少している。


以前に紹介した関連記事とほぼ同じ内容です。しかし、以前の記事では「大学とその教員の利益と学生の利益は別物であってwin-winではない。大学に残る優秀な学生が多ければ多いほど大学教員にとっては都合が良い。」のような鋭い指摘がありましたが、この記事ではそのような指摘も具体的な提言もありません。

ただ、「ドイツなど少数の国々では、博士課程教育を再定義して、問題にうまく取り組んでいる。つまり研究者育成教育の枠を超えて、政府組織や民間企業において高い職位に就くための教育課程に変えようとしている」というところが気になります。研究時間を減らして、高級職業訓練的な時間を増やすということでしょうか?

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