カンナビオイドによるグリシン受容体増強メカニズム:鎮痛作用だけを持つ大麻類似化合物の可能性

Cannabinoid potentiation of glycine receptors contributes to cannabis-induced analgesia

以下は、論文要約の抜粋です。


カンナビオイドはグリシン受容体の作用を増強する。しかし、その増強メカニズムや行動変化におけるカンナビオイド/グリシン受容体相互作用の意義は不明である。

人工的突然変異導入とNMRによる解析を用いて、我々はグリシン受容体の296番目のセリンが、マリファナの主成分であるΔ9テトラハイドロカンナビノール(Δ9-tetrahydrocannabinol (THC))による増強において重要であることを明らかにした。即ち、296番セリンの極性とTHCのヒドロキシル基がグリシン受容体を介する抑制電流(IGly)増強作用に重要である。

THCのヒドロキシル基を除いた化合物は、単独ではIGlyに影響しないが、カンナビオイドによるIGly増強作用に選択的に拮抗し、鎮痛作用の指標であるマウスにおける挙尾(tail-flick)テストにおいてもカンナビオイドの鎮痛作用に選択的に拮抗した。

さらに、α3グリシン受容体ノックアウトマウスでは、カンナビオイドの鎮痛作用は認められないが、カンナビオイド受容体として知られているCB1受容体とCB2受容体のノックアウトマウスでは、鎮痛作用は消失しなかった。

これらの結果は、カンナビオイドによるグリシン受容体増強作用の新しいメカニズムを明らかにし、マリファナの持つ鎮痛作用や臨床的に有用な作用が臨床に貢献する可能性を示唆する。


大麻は400以上の成分からなり、その成分には有益なものも有害なものもあります。有益な作用としては、慢性疼痛や痙攣、うつ病治療、多発性硬化症による筋スパズムのの軽減があります。しかし、大麻の主成分であるTHCは、運動障害や精神活性作用のような有害な作用も示します。

本論文は、THCの鎮痛作用と精神活性作用が異なるメカニズムによって生じることを示したものです。精神活性作用は、カンナビノイド受容体CB1受容体と結合することで生じることが知られていますが、鎮痛作用に関与するメカニズムは、あまりよく知られていませんでした。研究者らは上記のように、THCがグリシン受容体の膜貫通部分と結合し、CB1受容体を介さずにグリシン受容体に直接作用して、鎮痛作用を発揮することを明らかにしました。

確かに今回の結果は、ハイライトに書かれているように、グリシン受容体を活性化する一方でCB1受容体活性が欠損したTHC類似化合物、つまり、精神運動障害がなく鎮痛特性のみを持つ新薬を設計することが可能であることを示唆しています。論文では、5-desoxy-THCという化合物が鎮痛特性のみを持つと書かれています。

ただ、同じ痛覚テストでも熱いプレート(hot plate test)を用いて行うと、THCの鎮痛作用がCB1受容体を介することを示唆する結果が得られるそうですので、本研究で明らかになったグリシン受容体を介するTHCの鎮痛作用にどの程度の臨床的意義があるのかは、今後の課題だと思われます。

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