全麻薬は5量体イオンチャネル型受容体に働く:GABAA受容体を増強、ニコチン性Ach受容体を抑制

X-ray structures of general anaesthetics bound to a pentameric ligand-gated ion channel
(5量体リガンド作動性イオンチャネルに結合した全身麻酔薬のX線構造解析)

以下は、論文要約の抜粋です。


全身麻酔薬は長年にわたり広く使用されてきたが、その作用の分子メカニズムはよくわかっていない。全身麻酔薬の主な標的がGABA-A 受容体やニコチン性アセチルコリン受容体などの5量体リガンド作動性イオンチャネル(pentameric ligand-gated ion channels, pLGIC)であることを示す十分な証拠がある。全身麻酔薬によりGABA A 受容体は増強されニコチン受容体は抑制される。

最近そのX線構造が解明されたpLGICの細菌ホモログ(GLIC)も、臨床濃度の全身麻酔薬に対して感受性を示す。本論文では、プロポフォール/GLICおよびデスフルラン/GLIC複合体の結晶構造を報告する。

これらの構造から、共通の全身麻酔薬結合部位が明らかになった。結合部位は各プロトマーの膜貫通ドメイン上部に存在していた。両方の全身麻酔薬分子とGLICタンパク質との間にファンデルワールス相互作用があった。プロポフォールは空洞の入り口付近で結合するのに対して、より小さく変形可能なデスフルランはより深い内部に結合する。

結合部位を裏打ちするアミノ酸の変異は、プロトンに対するGLICのイオン応答を非常に大きく変化させ、全身麻酔の薬理作用に影響する。野生型と2つのGLIC変異体における分子動態シミュレーションから、結合部位でのプロポフォールの動きの違いが明らかにされ、変異の影響が説明された。

以上の結果は、全身麻酔薬の設計および脳の5量体リガンド作動性イオンチャネルのアロステリック修飾因子の設計のための新たな構造基盤を提供する。


全身麻酔薬は、GABA A 受容体やニコチン性アセチルコリン受容体などの5量体リガンド作動性イオンチャネル(pentameric ligand-gated ion channels, pLGIC)に働くと考えられていましたが、その結合部位については明らかにされていませんでした。

本論文では、pLGICの細菌ホモログ(GLIC)と全身麻酔薬の複合体の結晶構造をX線解析することで、結合部位を同定し、結合部位のアミノ酸に変異を導入して確認しています。

結合部位の同定でわかった重要なことの1つは、この部位が細胞膜の脂肪に近いことです。このことは、全身麻酔薬が受容体タンパク質と脂肪との相互作用を阻害する可能性を示唆しています。

哺乳動物細胞では、脂肪以外にも脂肪酸、コレステロール、ニューロステロイドなどが受容体タンパク質と相互作用し、全身麻酔薬はこれらのアロステリックな修飾因子との相互作用を阻害する可能性があります。

あくまで、本論文の結果は細菌ホモログの構造解析で、GABA受容体やニコチン性受容体の話は、これまでのデータとシュミレーションからの類推ですが、なかなか説得力があります。本物のGABA受容体やニコチン性受容体と麻酔薬の複合体の構造解析が成功すれば、長年不明だった医学の謎の1つが完全に解けることになりそうです。

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