小児がん(髄芽腫、Medulloblastoma)のゲノム解析―成人腫瘍よりも遺伝子変化が少ない

小児脳腫瘍を解読する

以下は、記事の抜粋です。


小児脳腫瘍である髄芽腫(Medulloblastoma)のゲノム解析が行われ、小児脳腫瘍では成人の腫瘍と比べて遺伝子の突然変異が少ない、ということが報告された。

今日まで、この「がんのゲノミクス」戦略は成人ガンに対してのみ適用されるだけであった。今回、D. Williamsらは、子供に最も多く発生する悪性の中枢神経系腫瘍、髄芽腫の中に存在する遺伝子変化を一覧にまとめた。

これらの腫瘍は小脳に存在している。髄芽腫を発症する原因についてはまだよくわかっていないが、本研究では関与が疑われるいくつかの遺伝経路の解明に焦点が当てられた。

本研究では子供88名の腫瘍を分析したが、これまで解析された成人固形腫瘍と比較し、遺伝子変化が5~10倍少ないことがわかった。

もっとも頻繁に突然変異を起こした遺伝子は、脳の正常な発達に重要なシグナル経路に影響する遺伝子と、ヒストンメチル化酵素をコードする2つの遺伝子であった。


元論文のタイトルは、”The Genetic Landscape of the Childhood Cancer Medulloblastoma”です(論文をみる)。

髄芽腫サンプルを用いて、226,467個のエクソン(225,752個のタンパク質をコードするものと715のマイクロRNA)の配列を解析しました。この解析は、50,191種類の転写産物をカバーしています。さらに、copy number variation (CNV、コピー数多型)も調べられました(CNVについては関連記事1を参照)。

その結果は上記のとおりですが、脳の正常な発達に重要なシグナル経路に影響する遺伝子とは、Hedgehog経路とWnt経路の遺伝子です。新しくみつかったのは、MLL2あるいはMLL3というhistone-lysine N-methyltransferaseをコードする遺伝子で、これらの遺伝子における不活化変異が髄芽腫の16%に認められたそうです。

関連記事2で、成人でのすい臓がんの進行は極めて遅く、最初の変異がおこってから原発巣のがんができるまで少なくとも10年、それから転移するまでに5年はかかるという報告を紹介しました。

つまり、がんができるには、多くの遺伝子変異が蓄積する必要があり、転移するためにはさらに多くの遺伝子変異の蓄積が必要であるということだと思います。小児がんで遺伝子変化が少ないという上記論文の結果は、この仮説に良く合っています。小児がんでは、数は少ないけれども細胞増殖に大きな影響を与える遺伝子変化がおこるのだと思います。

現在、多種多様な原発がんや転移がんで、本論文のような解析や全ゲノム配列解読が行われているようです。これらのデータは、今後データベースに急速に蓄積されて行くでしょう。その結果、近い将来、がんの表現型と遺伝子変化との対応が明らかになり、TNM分類や病期分類とともに遺伝子変化の一覧表が治療法の決定と予後予測に必須の情報になると思います。

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