アシル・グレリン合成酵素阻害薬による糖と体重のコントロール―抗肥満薬開発の可能性

「肥満防止薬」実験成功…食事減らさず体重抑制

以下は、記事の抜粋です。


食事の量を減らさなくても体重の増加を抑える「肥満防止薬」を合成することに、Johns Hopkins大などのチームが成功した。11月18日付サイエンス誌に掲載された。
チームは、人間や動物の中枢神経に作用して強い食欲を引き起こし、肥満をもたらすホルモン「グレリン」に着目。グレリンは特定の酵素の助けが必要なことから、この酵素を邪魔する物質を合成した。

この物質を注射したマウスと、しないマウスに高脂肪のエサを与えた体重を比較した。食べる量は変わらないのに、注射したマウスの約1か月後の体重増加は10%以内にとどまったのに対し、投与しないマウスは、20%程度体重が増えた。

合成した物質は食欲を抑えるのではなく、糖などの代謝能力を高めていた。摂取したエネルギーを消費して、体重増を抑えているらしい。


元論文のタイトルは、”Glucose and Weight Control in Mice with a Designed Ghrelin O-Acyltransferase Inhibitor”です(論文をみる)。
グレリン(ghrelin)は、寒川氏らによって発見された消化管ペプチドの1つで、28個のアミノ酸からなります。翻訳後、3番目のセリンがオクタノイル化修飾をうけて活性型(アシル・グレリン)となり、脊椎動物の体重増加を刺激します。ghrelin O-acyltransferase (GOAT)は、この活性に必須なオクタノイル側鎖付加反応を触媒する酵素です。

研究チームは、GOATを阻害するGO-CoA-Tatと呼ばれるペプチド系薬剤をデザインし、高脂肪の食餌を与えられているマウスに投与しました。その結果、野生型マウスの耐糖能を向上させ体重増加を抑制しましたが、グレリン・ノックアウトマウスには影響しませんでした。

興味深いことに、GO-CoA-Tatは体脂肪量は抑制しましたが、筋肉量や食物の摂取量には影響しませんでした。また、GO-CoA-Tatを投与されたマウスでは、肝臓、腎臓、すい臓、骨髄などの機能異常は認められず、毒性によって体重が増加しない可能性は否定されました。

これらの結果から、GO-CoA-TatはGOAT活性を特異的に抑制し、アシル・グレリンを減少させることで働くと思われます。体重増加抑制のメカニズムはまだ不明ですが、代謝への影響だと考えられています。

アシル・グレリンの働きを阻害するには、受容体レベルで阻害する方法もありますが、GOAT活性を阻害する方法には、血液能関門を越える必要がない、アシル・グレリンが過剰に産生されない、などの利点があると思われます。

ただ、GO-CoA-Tatは、ペプチド製剤のため、注射する必要があるので、そのままヒトの抗肥満薬として開発される可能性は少ないですが、今回の研究からGOATが抗肥満薬の分子標的として有望であることが示されました。

また、GOATと構造がよく似た膜結合性O-アシル転移酵素は、ヘッジホッグやWntなどのがんに関連するシグナル伝達にも関与しているので、アシル・ペプチドアナログを用いる同様の戦略が、がんなどの病気に有効である可能性も示されました。

グレリン投与の臨床効果を説明した図(宮崎大のホームページより)

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