非筋細胞ミオシンIIAは単純ヘルペスウィルス1型の侵入受容体として働く

ヘルペス感染防ぐ薬剤=マウスで開発、新薬期待―東大など

以下は、記事の抜粋です。


口や皮膚に水ぶくれができたり、角膜炎や脳炎になったりすることもある「単純ヘルペス」について、原因ウイルスの感染を防ぐ薬剤を開発しマウスで効果を確認したと、東京大や大阪大の研究チームが10月14日付のネイチャーに発表した。ウイルスに一度感染すると、風邪をひいたり年を取ったりして抵抗力が落ちたときに再び発症する。初感染の防止は重要で、新薬の実現が期待される。

ヘルペスには単純ヘルペスのほか、水ぼうそうと同じウイルスが原因で起きる帯状ヘルペスがある。

単純ヘルペスウイルスがヒトなどの細胞に侵入する際は、ウイルス上にある糖たんぱく質Bと同Dが、細胞側の表面にある窓口役のB受容体とD受容体にそれぞれ結合することで始まる。しかしB受容体が不明だった。

東大医科研の川口寧准教授らは、このB受容体が「非筋肉ミオシン2A」の重鎖と呼ばれる物質であることを解明。この物質は、細胞の中から表面に上がってきてウイルスの糖たんぱく質Bに結合するが、薬剤の「ML―7」を投与すると細胞表面への浮上を防ぎ、結合を阻止できることが分かった。

単純ヘルペスウイルスに感染すると角膜炎になるタイプのマウスにML―7を点眼すると、同ウイルスに感染させても、角膜炎を発症したり、死んだりする割合が大幅に低下したという。


元論文のタイトルは、”Non-musclemyosin IIAis a functional entry receptor for herpes simplex virus-1″です(論文をみる)。

研究者らは、単純ヘルペスウィルス1型(HSV-1)糖タンパク質B (gB)と特異的に結合するホスト細胞のタンパク質を免疫沈降と質量分析によって探しました。その結果、非筋細胞ミオシンIIA(NM-IIA)のサブユニットである非筋細胞ミオシン重鎖IIA(NMHC-IIA)が、gBとの結合によってHSV-1侵入受容体として機能することが明らかになりました。

具体的な実験結果としては、
1)TAP (tandem affinity-purification)法によりgB特異的結合タンパク質としてNMHC-IIAを同定した。
2)HSV-1に感染しにくい細胞系が、NMHC-IIAを過剰発現させるとHSV-1に非常に感染しやすくなった。
3)NMHC-IIAに対する抗体によってHSV-1感染が阻害された。
4)感染しやすい細胞のNMHC-IIAをノックダウンすると、HSV-1感染が阻害された。
5)HSV-1の侵入開始時には、細胞表面でのNMHC-IIA発現が迅速に亢進した。
6)ミオシン軽鎖キナーゼはリン酸化によってNM-IIAを調節しているが、このキナーゼの阻害薬(ML-7)は、細胞表面のNMHC-IIAの増加を抑えると同時にHSV-1感染を抑制した。

元来NMHC-IIAは、細胞膜ではなく細胞質に存在するタンパク質ですが、ウィルス感染時には細胞表面に局在するそうです。また、NMHC-IIAの局在は複合体を形成する軽鎖のリン酸化によって調節されています。研究者らは、ウィルス感染時に軽鎖のリン酸化が亢進することを発見しました。それで、ミオシン軽鎖キナーゼの阻害薬として知られていたML-7を使ったようです。

ML-7は、今から20年以上も前に当時名古屋大学の日高先生のグループによって作られました(論文をみる)。日高先生も、まさかML-7がヘルペス感染に効くとは想像されなかったでしょう。

川口さん達の論文のポイントは、侵入受容体の同定です。新聞記事のタイトルはmisleadingです。

ミオシンの構造(Biochemistry of Metabolismより)

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