クロピドクレル(プラビックス)は、CYP2C19の機能欠失変異の有無に関係なく効果を示す

Effects of CYP2C19 Genotype on Outcomes of Clopidogrel Treatment(クロピドクレル治療効果に対するCYP2C19遺伝型の影響)
以下は、論文の要約です。


背景:CYP2C19の機能欠失型変異のキャリアにおいては、クロピドクレルを活性型代謝産物に変換する能力が低下しているので、クロピドクレルが心血管イベントを防止する効果が弱いことが示唆されている。

方法:急性冠症候群と心房細動の患者における心血管イベント発生率に対する、クロピドクレルとプラセボの効果を比較した2つの大きなランダム化臨床試験の患者において、CYP2C19遺伝型を調べた。

結果:急性冠症候群の患者5059例において、クロピドクレルはプラセボと比べて優位に心血管イベント発生率を低下させた。この効果はCYP2C19機能欠失型変異と無関係だった。すなわち、心血管イベント発生率の低下は、CYP2C19の機能欠失変異をもたない患者、ヘテロで持つ患者、ホモで持つ患者の3群間でほぼ同じだった。一方、CYP2C19の機能獲得型変異のキャリアはノン・キャリア患者よりもクロピドクレルの効果が高かった。クロピドクレルの出血への影響は遺伝型によって差異はなかった。心房細動の患者1156例においては、薬物の効果あるいは出血は、CYP2C19遺伝型(機能欠失型あるいは獲得型変異を含む)とまったく関係がなかった。

結論:急性冠症候群あるいは心房細動の患者において、クロピドクレルはCYP2C19の機能欠失変異の有無に関係なく効果を示す。


関連記事1にあるように、米国FDAは今年3月、抗血栓薬プラビックス(一般名:クロピドクレル)に対して新しい注意書き、「プラビックスをうまく代謝できない人(poor metabolizer)は、期待した治療効果が期待できない」を追加しました。

新しい「使用上の注意」では、医師に対して、担当の患者に遺伝子検査を受けさせ、poor metabolizerかどうかを調べるように、さらにpoor metabolizerであることがわかった場合は、代替薬に変更するように指導しています。

poor metabolizerにも有効なチカグレロルなどの新薬も現在開発中です。その第1のセールス・ポイントは「代謝されなくても効く」ということです。2番目のポイントは受容体との結合がクロピドクレルが不可逆的であるのに対して、可逆的であることです(関連記事2)。

poor metabolizerはアジア人に多く、日本人の5人に1人がpoor metabolizerです。私は、この論文をみるまでは、5人に1人の割合でプラビックスは効かないと思っていました。

本論文は、このような「常識」に対する反論です。少なくとも、急性冠症候群と心房細動の患者における心血管イベント発生率については、CYP2C19の機能欠失変異の有無に関係なく効果を示すことを示しました。

これまでの臨床試験と結果が異なる理由として、1)これまでの研究はプラセボを対象としていなかったが、今回のものはプラセボを対象としたランダム化臨床試験であること、2)これまでの研究で多くを占めているPCI(経皮的冠動脈インターベンション)を伴う症例が本研究では少なかったこと、などが考えられています。

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