ゲフィチニブは、特定の肺がんには有効だが「夢の新薬」ではなかった。大阪のイレッサ訴訟結審

大阪のイレッサ訴訟結審 国と販売元に1億円請求

以下は、記事の抜粋です。


肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の副作用の危険性を知りながら必要な対応をとらなかったとして、患者と遺族計11人が、輸入を認めた国と輸入販売会社「アストラゼネカ」(大阪市)に計1億450万円の損害賠償を求めた訴訟が7月30日、大阪地裁で結審した。判決は来年2月25日。

原告側は「ア社は薬の添付文書や広報で副作用に言及しなかった。承認以降多くの死亡が相次いだのに国は使用限定などの対策を怠った」などと主張。イレッサ服用後に間質性肺炎を発症した原告清水英喜さん(54)も「なぜあれほど承認が早かったか知りたい」と意見を述べた。

国・ア社側は、間質性肺炎が副作用の一つだと認めた上で「承認時のデータでは添付文書で警告するまでの必要性はなく、承認後も最大限の対応をとった」と反論した。
イレッサは英国のア社本社が開発し、2002年7月に世界に先駆け日本で輸入承認、販売された。


以下は、がんサポート情報センターから転載した「イレッサをめぐる動き」です。

2002年7月 厚生労働省が世界に先駆けて承認、発売(承認申請は2002年1月25日)。
8月 保険適応となる。
10月 厚生労働省からイレッサについての緊急安全情報が出される。指示を受けアストラゼネカ社からイレッサによる間質性肺炎の緊急安全情報が出される(イレッサの副作用よるものと思われる死者13名)。
12月 厚労省が安全対策をまとめ、添付文書の改定をア社に指示。
指示を受け添付文書が改定(第4版)。
03年 2月 肺障害による副作用死、173人に。ア社が欧州で承認申請。
5月 イレッサの副作用被害者は616例と、厚生労働省が発表。
うち、246人が死亡。米国FDAが販売を承認。
04年 7月 「イレッサ薬害被害者の会」の京都の遺族が、製薬会社と国に対して損害賠償を求めて大阪地裁に訴状を提出。
12月 ア社が「延命効果なし」の試験結果発表。
それを受けFDAも「延命効果なし」との声明を発表。
05年 1月 ア社が欧州での承認取り下げ。厚労省がゲフィチニブ検討会を設置。
推定累積患者数86800人。死亡588例と発表される。
2月 薬害イレッサ・東京訴訟の第1回裁判が東京地方裁判所102号の大法廷で開かれる。
3月 第4回ゲフィチニブ検討会。日本肺癌学会より、イレッサ使用に関するガイドラインが出される。ア社の発表で、服用患者数の修正の報告。86000人の発表は計算ミスで本当の数字は42000人。

非小細胞肺がんで上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor (EGFR))に変異があるものは、ゲフィチニブ(gefitinib、商品名:イレッサ)のようなEGFRチロシンキナーゼ阻害薬に良く反応するとされていますが、従来の化学療法と厳密に比較した臨床研究はありませんでした。

最近の関連記事で紹介したように、ゲフィチニブと従来化学療法の比較がEGFR変異を有する進行非小細胞肺がん患者において行われました。その結果、ゲフィチニブは、腫瘍が大きくならずに安定している期間を有意に延長しました。

非小細胞肺がんの場合、ゲフィチニブやエルロチニブ(商品名:タルセバ)という分子標的薬を使うのは、(1)遠隔転移のある4期の患者、(2)胸水などがあり根治的な放射線治療が対象とならない3期(がんが周辺臓器へ広がっている病期)の患者、(3)最初に3期と診断された治療を受けた患者の再発後、(4)手術後に再発した場合です。しかも、「ファーストライン」(第1次薬物療法)として使うのではありません。

「ファーストライン」で使われるのは、主にシプラチナ系抗がん剤です。この治療の効果がなくなった時、「セカンドライン」として、主にドセタキセルなどが使われます。これらの化学療法に反応しなくなった時、「サードライン」として、分子標的薬を使うのが、現在の肺がんの標準的な治療です。しかし、上記の新しい報告を受けて、EGFR変異を有する非小細胞肺がんに対しては、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬がファーストラインになる可能性があります。

承認前から「副作用の少ない夢の新薬」としてマスコミにもてはやされ、イレッサは進行性肺がんの治療薬として急速に普及しました。その結果、劇的な治療効果を得た患者の報告とともに、間質性肺炎などの副作用で死亡する報告が相次ぎました。年表のように、2004年12月にはアストラゼネカ社が「延命効果なし」の試験結果を発表し、マスコミは一転して「薬害」として報道しました。訴訟は、このような状況の中で行われました。

ゲフィチニブは、特定の肺がんには有効で必須の薬物ですが、副作用があります。国とアスタラゼネカの責任は裁判に委ねるとして、副作用のない薬物などありえないはずなのに、「夢の新薬」を煽ったマスコミとそれを信じて適応外の投薬を行った医師の責任は極めて大きいと思います。

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私たちからイレッサを奪わないでください!!

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