HIV-1型エイズウィルスを中和する抗体とそのメカニズム。ワクチンはできるか?

HIV1型に効く抗体を発見=米研究チーム、予防薬開発に応用

以下は、記事の抜粋です。


米国立アレルギー感染症研究所を中心とする研究グループは、エイズウイルスの主流であるHIV1型を劇的に無力化する抗体を発見したと発表した。HIVウイルスは変異しやすいが、7月8日付の米科学誌サイエンス(電子版)に掲載された報告によると、今回特定された抗体はHIV1型の変異株の9割以上を無力化する。将来は、ワクチンや予防薬などへの応用が期待できるという。

研究グループは、エイズ感染者から提供を受けた血清を徹底的に調査。その中から、3種類の抗体とそれを産み出す細胞を特定することに成功した。


元論文のタイトルは、”Structural Basis for Broad and Potent Neutralization of HIV-1 by Antibody VRC01″です(論文要約をみる)。残念ながら、うちの大学の契約では論文は読めないようです。以下は、論文要約の抜粋です。


HIV-1感染すると、HIV-1受容体であるCD4に結合するgp120というウィルスの外皮糖タンパク質に対する抗体が作られる。研究者らは、これらの抗体の中からVRC01と名づけた抗体をみつけた。VRC01は幅広いエイズウィルス(HIV)を中和(無力化)できる。

研究者らは、HIV-1のgp120のコア部分とVRC01の複合体の結晶構造を決定した。その結果、VRC01は、CD4がgp120と結合する様式と良く似た形で結合することがわかった。

CD4と結合する部分に対する抗gp120抗体のほとんどは、gp120のグリカン(糖)や立体構造変化によるマスキングによって、中和効果が減弱するのだが、このVRC01は、CD4のような構造から変化して、gp120が最初にCD4に結合する急所のような部位に結合するので、その中和効果が保たれる。

gp120を認識するために、VRC01は主にV領域由来の部分を介してgp120と結合する。このように、CD4受容体の模倣と広範囲の親和性成熟によって、この自然に得られたヒト抗体がHIV-1を中和すると考えられた。


エイズ患者の血液からHIV-1を中和する抗体を探すために、CD4と反応するものに絞ってスクリーニングしたことが研究チームの成功のカギだったようです。チームは15人のエイズ感染者から2千5百万個のB細胞を調べ、29個のCD4反応性抗体を選び、その中からVRC01を発見したそうです。

この抗体の提供者は60歳の黒人で、ゲイの男性、業界では「Donor 45」とよばれており、HIVとともに20年間生きているそうです。HIV-1は、彼がこの抗体を作る前に感染したのだろうと考えられています(記事をよむ)。

抗体は、B細胞によってつくられるのですが、産生中にB細胞の抗体産生遺伝子に変異がおきます。この変異によって最適の抗体が淘汰されていきます。これを親和性成熟(affinity maturation)とよびます。通常の成熟した抗体では10-15の変異を持ちますが、VRC01は66の変異を持つそうです。また、VRC01の元になった未成熟な抗体は、HIVの中和能力がないことも確認されています(記事を読む)。

これらの結果は、簡単にはワクチンができないことも示しています。親和性成熟をどうコントロールできるかわからないからです。最初はVRC01の骨組みとなる抗体を作る抗原を投与し、次に親和性成熟を引き起こすための抗原を投与する必要があるかもしれません。

VRC01を抗体医薬として使うことはできるかもしれませんが、公的医療としてはコストがかかり過ぎます。VRC01のような抗体を誘導できるワクチンの開発、あるいはDonor 45のようにHIVと共存できる治療法の開発などがこの抗体の発見をきっかけに進展する可能性があります。

緑の部分がVRC01

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