コカイン依存症になりやすいラットでは、側坐核NMDA受容体を介するLTDに障害がある。

Transition to Addiction Is Associated with a Persistent Impairment in Synaptic Plasticity

以下は論文の要約です。


乱用薬物の慢性的摂取は、脳に無数の変化を引きおこす。しかし、薬物依存症への移行に特異的に関連する神経生物学的変化は同定されていなかった。

コカインの自己投与は、側坐核という脳の部位でのlong-term depression (長期抑圧、LTD)というシナプス可塑性の現象を急速に抑制する。

研究者らは、ラットの薬物依存症モデルを用いて、典型的な薬物依存症状を示すラットではLTDが障害されたままであるが、薬物依存に陥らないラットではLTDが速やかに回復することを示した。

環境変化にも関わらず、かたくなに薬物を求め続けることで、どんどん柔軟性を失っていく。これがLTDの障害によって薬物依存症へ移行するメカニズムかもしれない。


薬物依存症への移行とは、薬物摂取が制御されている(セルフコントロール可能)状態から、取りつかれたように薬を求めて摂取が制御できない状態になってしまうことです。

同じように薬物を摂取しても、依存症になる人とならない人があります。本研究は、その違いを明らかにしようとしています。数年前、ラットでも同様の現象、すなわち、ラットに薬物を投与すると、一部のラットは依存症になるが、他の大部分はならないことが発見されました。

本研究は、このようなラットを用い、シナプスの可塑性に注目して実験を行いました。具体的には、ラットが床の穴に鼻を突っ込んでコカインを自己投与する実験で、電気ショックという罰にもかかわらず、コカインを自己投与するラット(Addict群)が約20%現れるシステムを用いました。

こうして得られたAddict群とnon Addict群を比較して上記のような結果が得られました。注目した脳の部位は、ドーパミン神経、大脳皮質、扁桃体、海馬からの入力が集まる側坐核という領域です。側坐核で、グルタミン酸刺激によるLTDを調べたところ、NMDA受容体を介するLTDが薬物依存症への移行に重要だったという結論です。

フレキシブルなシナプスをもつラットが薬物依存症になりにくいという結論はおもしろいですが、どうして一部のラットだけが依存症になるのか、他にもっと重要な変化はないのか、などの疑問はまだ残ります。

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