便秘型IBSおよび慢性便秘の治療薬「リナクロチド」と大腸菌耐熱性毒素(ST)

【アステラス製薬】便秘型IBS治療薬「リナクロチド」導入
以下は、記事の抜粋です。


アステラス製薬は、米アイアンウッド・ファーマシューティカルズが便秘型過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome, IBS)および慢性便秘の治療薬として開発中の「リナクロチド(linaclotide)」について、日本・インドネシア・韓国・フィリピン・台湾・タイでの独占的開発・販売権を取得した。

リナクロチドは、1日1回投与の経口C型グアニル酸シクラーゼ(GC-C)受容体作動薬。腸粘膜上皮細胞上のGC-C受容体と結合し、細胞内の環状グアノシン一リン酸(cGMP)の産生を活性化させることで、腸運動を促進し、便秘を改善する。また、細胞外のcGMPの分泌を促し、腹痛を軽減する作用も持っている。

現在、アイアンウッドは、便秘型IBS・慢性便秘患者を対象とした、リナクロチドの第III相試験を米国で実施している。


私は、GC-Cの研究をしていたことがあります。腸管毒素原性大腸菌(enterotoxigenic E. coli, ETEC)の耐熱性毒素(heat stable toxin, ST)が、GC-Cを活性化してcGMPを産生するメカニズムを生化学的に調べていました(文献を見る)。

ETEC は途上国における乳幼児下痢症の最も重要な原因菌であり、先進国においてはこれらの国々への旅行者にみられる、旅行者下痢症の主要な原因菌です。また、途上国において、ETEC下痢症はしばしば致死的で、幼若年齢層の死亡の重要な原因です。

正常の腸上皮では、guanylinやuroguanylinとよばれるペプチドが、腸管内Na濃度の上昇によって産生・分泌されます。分泌されたペプチドはGC-Cを活性化し、腸上皮細胞内で産生されたcGMPは、Na+/H+ 交換を抑制し、cystic fibrosis transmembrane conductance regulator (CFTR)を活性化します。その結果、小腸では、水、塩素、重炭酸塩が腸管へ分泌されます。また、大腸ではNaや水分の吸収が抑制されます。
STは、GC-Cを強く活性化することで、上記のメカニズムを亢進させ、下痢をひきおこします。

大腸菌のST遺伝子は、72アミノ酸のペプチドをコードします。54から72番目までの19アミノ酸のペプチドが分泌され耐熱性毒素として働きます。私は、生物活性のある59から72番目までの14アミノ酸のペプチドを合成し、このペプチドによるGC-C活性化と受容体との結合の関連を調べていました。

ネットを調べてみて驚いたのは、リナクロチドと私の使っていたペプチドはほとんど同じだったのです。どちらも14アミノ酸のペプチドで、リナクロチドではSTの62番目のleucineがtyrosineに代わっただけです。他の13個のアミノ酸配列も、予想される構造もほとんど同じです(配列をみる)。

上の記事では、アステラスは、アイアンウッドに対し、契約一時金3000万ドルと、開発段階に応じたマイルストーンを含む総額7500万ドルを支払う。また上市後は、売上に応じたロイヤリティを支払うほか、独占権を取得したアジア6カ国での臨床開発、承認取得、販売に関する全ての費用を負担する。とされています。

リナクロチドではなく、私の使っていたペプチドを飲んだらどうなるのでしょう?腸管まで到達すれば、絶対に効くはずです。このような自然に存在するペプチドの一部で、以前から多くの研究者が使っていたようなものの場合、ロイヤリティはどうなるのでしょう?自分のお金ではありませんが、思わず考えてしまいました。

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