抗精神病薬の多剤大量投与と第2世代薬(非定型薬)

統合失調症に新治療戦略 多剤大量から単剤適量へ

以下は、記事からの抜粋です。


従来型の抗精神病薬に比べ、副作用の少ない新タイプの非定型薬を単剤で適量使う新治療戦略を、盛岡市立病院の上田均・精神科科長が提唱している。

上田科長によると、統合失調症の患者に従来型の治療薬の多剤併用に非定型薬を上乗せして使っても、症状は改善しなかった。このため、思い切って非定型薬の単剤にして量も減らすと、見違えるほど好転したという。

「従来の多剤大量療法を漫然と続ける限り、非定型薬の効果は減り、普及が遅れる」。そう指摘する上田科長は、新治療戦略を提言する。

内容は(1)統合失調症を発症した患者に一種類の非定型薬を少量からゆっくり増量していき、きめ細かく観察する(2)薬物による早急な鎮静を求めすぎない(3)心理社会的治療・介入を併用するなど。非定型薬は、自閉や意欲低下などの症状にも効く。日本では現在、四種類(リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、ペロスピロン)が承認されており、順次使って患者に合った薬を選択する。

こうした方法を組み合わせることによって、患者の生活の質(QOL)改善や社会復帰の促進、再発防止につながるという。


抗精神病薬の多剤大量投与に書かれているように、統合失調症に用いる抗精神病薬は、1種類のみを使う単剤療法が、世界の標準治療であり、日本で従来広く行われている多剤大量療法に科学的な根拠はありません。

上の記事は、1種類の非定型薬を発症時から使用することをすすめています。この記事の科学的根拠を検討するために、下記のLancet誌のメタ解析論文を調べてみました。

Second-generation versus fi rst-generation antipsychotic drugs for schizophrenia: a meta-analysis

論文では、記事で記載された4つの第2世代抗精神病薬のうち、日本で開発されたペロスピロン以外のリスペリドン、オランザピン、クエチアピンの3つを含む計9種類の第2世代薬と、第1世代薬を種々の効果や副作用において比較しています。

論文の結論をまとめると、
1.総合評価において、オランザピンは中等度の、リスペリドンは小さな優位性をハロペリドール等の第1世代薬に対して示したが、クエチアピンは優位性を示さなかった(日本で市販されていない薬物を含めると、9種類の第2世代薬の中、5種類は優位性を示さなかった)。
2.第2世代薬は、一概に「陰性症状(自閉や意欲低下など)」に有効であるとは言えない。
3.第2世代薬の錐体外路系の副作用は、ハロペリドールよりも少ないが、ハロペリドール以外の第1世代薬よりも少ないとは言えない。
4.第2世代薬による体重増加の副作用は、ハロペリドールよりも多い。
5.第2世代薬による鎮静作用は、薬物によってちがう。
6.「第2世代薬」あるいは「非定型薬」といっても薬物によってかなり性質が異なるので、一様なグループとして扱うことはできない。
7.第2世代薬は、薬価が高く、患者の負担が大きい。

以上のように、上田先生の「新治療戦略」にも科学的根拠はありません。自身の経験に基づいて、勝手に提言しているだけです。おおまかにいえば、第1世代薬と第2世代薬の違いは、ドーパミンD2受容体遮断作用が強いか、セロトニン5-HT2A受容体遮断作用が強いかの違いです。統合失調症治療において、5-HT2A受容体遮断作用がより重要であるという結論はありません。

「多剤大量から単剤適量へ」は良いですが、いきなり第2世代薬を投与するよりは、患者の経済的負担も軽く、作用・副作用に関する情報が蓄積している第1世代薬から始めるのが良いと思います。きめ細かく観察するとか、早急な鎮静を求めすぎないなどは当然です。

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