新規抗うつ薬「NaSSA」とは?

明治製菓、吐き気などの副作用少ないうつ病治療薬
明治製菓、シェリング・プラウと共同開発したうつ病治療薬「リフレックス錠 15mg」を発売

以下は、上の最初の記事の抜粋です。


明治製菓は9月7日、うつ病治療薬「リフレックス」を同日発売したと発表した。シェリング・プラウと共同開発した製品で、従来の抗うつ薬とは効き方が異なり、吐き気などの副作用も低減できるとみている。明治製菓はピーク時年間150億円の売り上げを見込んでいる。(一般名は、「ミルタザピン」、シェリング・プラウからは、「レメロン」という商品名で販売)
「NaSSA」と呼ぶ錠剤の抗うつ薬。神経伝達物質「ノルアドレナリン」と「セロトニン」の神経伝達を増強する。[2009年9月8日/日経産業新聞]


「NaSSA」とは、Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressantの略だそうです。そのまま訳すと、「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ剤」ですが、「ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬」ともよばれています。

抗うつ薬の多くは、SNRI (Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)やSSRI (Selective Serotonin Reuptake Inhibitor、選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などのように、シナプスでの再取り込みを阻害することで、シナプス間隙での神経伝達物質濃度を増加させ、神経伝達を増強することが作用メカニズム(機序)と考えられています。

ミルタザピンの機序は次のように説明されています(明治製菓のサイトをみる)。

(1)ノルアドレナリン(NA)神経シナプス前α2-自己受容体を遮断することによりNA遊離を促進
(2)NA細胞体に存在するα2-自己受容体を遮断することによりNA神経を活性化
(3)NA遊離の促進によるセロトニン(5-HT)神経細胞体α1-受容体を介した5-HT神経活動の活性化
(4)5-HT神経シナプス前α2-ヘテロ受容体を遮断することにより5-HT遊離を促進
(5)後シナプス5-HT2,3受容体の拮抗作用

記事では、このような機序の薬物は初めてで、副作用も少ない画期的な新薬であるかのように説明されていますが、そうではありません。従来からある薬物のミアンセリン(商品名テトラミド)の機序と良く似ていますし、副作用もあります。ミアンセリンも発売当初は画期的新薬として注目されました。しかし、抗うつ効果が弱く、眠気の副作用が強いため、抗うつ剤として単独で使用されることは少なくなりました。

ミアンセリンも、シナプス前α2-アドレナリン受容体を阻害することで神経シナプス間隙へのノルアドレナリン放出を促進する作用がある抗うつ薬です。5-HT2受容体阻害作用もあります。構造的にもこれら2つの薬物は良く似ています(ミルタザピンの構造ミアンセリンの構造)。どちらも、創薬はシェリング・プラウですので、ミルタザピンはミアンセリンの派生薬・改良版と考えて良さそうです。

ミルタザピンの主な副作用は、眠気と体重増加で、これもミアンセリンと共通です。ミアンセリンは、「寝て治す抗うつ薬」といわれるぐらい眠気を起こしますが、ミルタザピンも同程度の強い眠気をひきおこすそうです。口渇や便秘もあるので、ヒスタミンH1受容体やムスカリン性アセチルコリン受容体への阻害作用も強いと思われます。「NaSSA」という名前にしては、ノルアドレナリンやセロトニンに特異的ではなさそうです。

オランダでは、15年前から発売されており、現在90カ国以上で発売されているそうです。日本での発売がこれだけ遅れたということは、製薬メーカーの治験や開発への意欲が低かった、即ち、あまり売れないと思っていたのか?などと想像してしまいます。

これだけ「古い」薬ですので、単独使用での効果やSSRIなどとの併用効果などについても、かなりの情報が蓄積されているはずです。選択肢が増えることは良いことですが、医師はむやみに新薬に飛びつかず、正確な情報に基いて、科学的かつ良心的な処方を心がけてください。

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