遺伝性パーキンソン病患者由来のiPS細胞から作成したドーパミン神経細胞のミトコンドリアストレス感受性をカルシウム拮抗薬が抑制した

パーキンソン病に高血圧薬が効果、iPS使い確認
以下は、記事の抜粋です。


高血圧の治療に使う薬がパーキンソン病に効く可能性があることを、慶応大とエーザイのグループが突き止めた。ヒトのいいPS細胞を使って病気の状態を再現することで確かめた。

パーキンソン病はドーパミンという物質を作る脳内の神経細胞が減り、手足が震えたり、体が動かしにくくなったりする難病。

岡野栄之教授らのグループは、タイプが異なる遺伝性のパーキンソン病の患者2人の細胞からiPS細胞を作り、病気の状態を再現。1165種の薬を試したところ、高血圧の治療に使われている既存薬のベニジピン塩酸塩で、神経細胞が死ぬのを防ぐ効果があることを確認したという。

同大によると、パーキンソン病の患者の約9割は突発的に発症する「孤発性」。様々な要因が関係するため、発症の仕組みを解明することは難しい。遺伝性のパーキンソン病で、発症の仕組みや治療薬の候補が見つかれば、孤発性の治療法の開発にもつながる可能性があるという。


元論文のタイトルは、”T-type Calcium Channels Determine the Vulnerability of Dopaminergic Neurons to Mitochondrial Stress in Familial Parkinson Disease”です(論文をみる)。

この論文で使われた「タイプが異なる遺伝性のパーキンソン病」の患者2人の変異遺伝子はPINK1(PARK6) とPARKIN (PARK2)です。以下は、遺伝性パーキンソン病を研究している順天堂大学のグループによる「遺伝性パーキンソン病の集学的研究 ~分子遺伝学的アプローチからの解明を目指す~西岡健弥 李元哲 舩山学」からの抜粋です。


Parkin (PARK2)と PTEN-induced putative kinase 1; PINK1 (PARK6)
PARK2 は 1999 年、当科より世界に先駆けて同定された。常染色体劣性遺伝の形式をとる家系に認められる。本邦の常染色体劣性遺伝性 PD の 50%に認められる。PARK2 遺伝子産物である Parkin 蛋白はユビキチン E3 リガーゼであり、ミトコンドリアの品質管理に関係しており、ミトコンドリアの機能の破綻により PD が発症する機序も考えられている。

PARK2 変異を持つ患者の臨床像は非常に特徴的であり、孤発型 PD とは一線を画す。40-50 歳以下の若年発症であり、レボドパに対する反応は良好であり、低容量で経過し、下肢のジストニア、すくみ足、姿勢反射障害を認める。また睡眠により改善の得られるsleep benefit や、レボドパ誘発性のジスキネジアを起こしやすい。一方で、通常の PD やPARK1 に見られるような認知機能障害、幻覚、嗅覚障害、レム睡眠障害等は認められない。また病理像として、Lewy 小体はないか認めない症例がほとんどである。

常染色体劣性遺伝を呈する中で PARK2 の次に頻度が高いものに PINK1 があるが、PINK1 もほとんど PARK2 と同様の臨床像を呈している。Parkin と PINK1 の関連についても、遺伝子改変動物も含めて盛んに研究は行われており、共にミトコンドリアの品質管理に関与する。


記事には「遺伝性のパーキンソン病で、発症の仕組みや治療薬の候補が見つかれば、孤発性の治療法の開発にもつながる可能性があるという。」と書かれていますが、遺伝性パーキンソン病の説明にもあるように、論文で用いられたParkin と PINK1の遺伝子に変異のあるパーキンソン病は、その臨床像も病理像も孤発性のものとはかなり異なります。

Parkin と PINK1という2つの遺伝子産物はミトコンドリアの品質管理に関与しているそうです。上の論文は、ミトコンドリア機能を阻害するロテノンという化学物質を用いてParkin と PINK1の遺伝性パーキンソン病患者由来のiPS細胞から作った神経細胞に細胞死を誘導し、その細胞死をベニジピンが抑制したという結果を報告しています。

この論文の結果が正しいとしても、パーキンソン病に高血圧薬あるいはベニジピンが効果があることが確認されたのではないので、「パーキンソン病に高血圧薬が効果、iPS使い確認」という朝日新聞の記事のタイトルは書き過ぎだと思います。

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